インド、ビハール州ブッダガヤ
ダライ・ラマ法王は、今朝もチベット僧院からカーラチャクラ・グラウンドまで歩いて移動された。途中で法王は何度も足を止めて、沿道に並んだ人々と挨拶を交わされた。法王は、合掌して満面の笑みを向ける人々に引き寄せられるようにして近づいたり、また、子どもたち、年配の人々、仏像を差し出してお加持を求める人々をご覧になると、自ら手を差し伸べて触れたりしながら、ゆっくりと会場まで歩まれた。カーラチャクラ・グラウンドのステージに辿り着かれた法王は、ツォンカパ大師600年御遠忌を祈念して開催された暗唱大会で上位の成績を収めた僧侶、尼僧たちとの記念撮影に臨まれた。
今日は最初に10人のミャンマーの僧侶たちが『吉祥経』の一部をパーリ語で唱え、次にロシア人の僧侶と在家信徒からなるグループが『般若心経』をロシア語で唱えた。彼らのうちの数人はロシア連邦のトゥヴァ共和国から参加している。そして、別の僧侶たちと在家信徒が混ざったグループが、今度は英語で『般若心経』を誦経した。
法王は、文殊を巡る一連の法のなかから、今日はジェツンマ・ナクモと呼ばれる黒い忿怒の女尊、金剛瑜伽女{こんごうゆがにょ}(ヴァジュラ・ヨーギニー)を本尊とする許可灌頂を授与すると告げられた。そして灌頂授与の前段階として、法王が前行修法(準備の儀式)を執り行われる間、受者たちは『ミクツェマ(ツォンカパ大師への礼讃偈)』を唱えているとよい、と話された。また、灌頂授与の儀式が始まる直前には、『二十一尊ターラー菩薩礼讃偈』を皆で唱えるようにと促された。
そして法王は、灌頂の儀式は菩薩戒の授与から始まると述べられ、次のように言及された。
「菩提心生起と菩薩戒の授与については、ここ数日にわたって何回もお話ししてきました。菩薩たちは慈悲の心で有情をご覧になっています。虚空を満たす生きとし生けるものすべてを苦しみから解放し、彼らを幸せにし、最終的に仏陀の境地に導こう、という揺るぎない決意とそれを実行する勇気を持つ者が菩薩です」
「菩提心は、あらゆる善きものをもたらす究極の源です。菩薩たちは智慧に支えられて究極の悟りを目指します。ですから、皆さんも意味のある人生を送りたいと望むなら、菩提心を育んでください。菩薩戒授与の復唱文のなかに、“智慧と慈悲をもって精進し、有情を利益するために、私は仏陀の御前に、完全なる悟りのために菩提心を生起いたします” と言われているように、過去の仏陀たちは菩提心を基盤として悟りを開かれました。現在の仏陀たちも同じ道を歩んでおられ、未来の仏陀たちも同じように菩提心を基盤として悟りに至られるのです」
「“私は最勝なる菩提心を生起します” と念ずることで、皆さんの心に利他行をなすために悟りを開きたい、という希求を呼び起こしてください。そして、ただ思いやりのある善い心を持って他人を助けたい、と願うだけでは十分ではないことを覚えておいてください。何故ならば、菩薩行の実践を行うという誓いを立てなければならないからです。主要な菩薩の実践は何かというと、利己的な動機を持たないということです。『六座グルヨーガ』のテキストでは以下のように唱えています」
また、シャーンティデーヴァ(寂天)も『入菩薩行論』で、次のように書かれています。
「天人、ナーガ(龍)、ヤクシャ(夜叉)なども皆このような気持ちにならなければなりません。あたたかい心があり、その心に基づいて実際に行動するならば、愛と平和に満ちた世界を作り出すことができるでしょう。菩提心によって、福徳を積み、罪を清めることができます。毎日菩薩戒を新たに授かることにより、菩薩の実践を行うという決意を新たにしてください」
「勇気を持ち、心に喜びを抱きながら菩提心を育むことで、一時的な幸せと究極的な幸せの両方がもたらされることでしょう。何度生まれ変わっても、いつの時も有情を利益すると決意してください。『宝行王正論』の第5章83偈には、“地、水、火、風、薬草、寺院の樹木のように、常にすべての有情が、望み通りに〔妨げなく〕私を用いることができますように” と言われているように、一言でいうと、利他行を実践する勇気を持つことです」
今日の灌頂伝授会も終わりに近づき、大祈願祭実行委員会の代表が昨日の法王の助言により、国連難民高等弁務官事務所に寄付を行うと発表した。その後『真実の言葉』が唱えられ、伝授会が終了した。カーラチャクラ・グラウンドを後にされた法王は、車でチベット僧院まで戻られた。