インド、カルナータカ州ムンゴット
今朝、ダライ・ラマ法王は階下の講堂に行かれる前に、明日から始まる国際会議「ジェ・ツォンカパの人生、思想、遺産」の賛同者や支援者の一行と面会された。法王はその席で、インド古来の非暴力と慈悲の心について、現代に通じる大きな価値があると称賛された。
そして法王は次のように語られた。
「論理的に分析すれば、慈悲の心の素晴らしさを理解できるようになります。慈悲の心は内なる平和を育むものですが、これによって恐怖心や猜疑心が和らぎ、人は精神的に強くなれるのです。さらに突き詰めて考えるなら、破壊的な感情が自己中心主義と密接に関係していることに気づくでしょう」
その後、法王はガンデン僧院の講堂で学生たちが問答を行う様子をご覧になった。学生の多くはアルナーチャル・プラデーシュ州のモン地方の出身である。初めのグループは、バーヴァヴィヴェーカ(清弁)が『思択炎』に書いたように、「私たちの流儀(中観自立論証派)に従って言えば、意識が自我であると考える。何故ならば、意識が今世から来世へと引き継がれていくものだからである」という主張に基づく問答を行った。また別のグループは、ナーガールジュナ(龍樹)の『根本中論頌』15章に述べられている「自性の考察」についての問答を行った。質問者がこの場合の「自性」という言葉の意味を訊ねると、回答者は、それは否定対象のことであると答えた。
論理学について学んでいる学僧たちは、シャーンタラクシタ(寂護)の『真理網要(Tattvasamgraha)』とディグナーガ(陳那)の『集量論(Pramana-samuchhaya)』の一節を主題とする問答を行った。度々行われる機転の利いた応酬に、会場には笑いが沸き起こっていた。
始めのころの問答は質問者ひとりに対して数名が回答する形式で行われたが、『心の科学』や『仏教基礎学』を学んでいる予科の生徒たちは、数人の質問者に対して数人が答える形で問答を行った。
やがて、最後を締めくくる吉祥の偈頌が唱えられ、問答によって仏陀の教えやジェ・ツォンカパの教義が未来に受け継がれていくように、また、法王が長寿を全うされるようにという祈りが捧げられた。
法王は次のように語られた。
「近くにあるジャンチュプ・チュリン尼僧院は、数名のゲシェマ(女性の仏教哲学博士)を輩出しています。私も以前訪問したことがありますが、今回再訪するのは難しいようです。シャーンタラクシタ(寂護)が初めてチベットで比丘の戒律を確立されたとき、比丘尼(女性の出家者)を連れてくることはできませんでした。そのため、チベット人には完全な比丘尼の系譜がありません。しかし、男性と女性の学習能力には違いは何もありません」
「最近のチベット人の学校では、論理学を学んだり問答を行ったりしていますが、教えているのは宗教の先生ではなく哲学の先生方です。私は、僧侶や尼僧だけでなく、一般の老若男女すべての人たちが論理学と問答を活用できるようになってほしいと願っています。これまで南インドに再建された三大僧院ではこの伝統を守ってきましたが、どうか、今後も引き続きこの伝統を守りつづけてください」
また、法王はいくつかの問答で菩提心生起が取り上げられていたことに触れ、シャーンティデーヴァ(寂天)の偈を唱えられた。
「今読み上げたすべての偈の要点は、他の人々を思いやって行動することがすなわち幸福を生み出すことであるということです。最後になりましたが、僧侶の皆さん、仏陀の教えを末永く後世に残せるかどうかは皆さんの勉強と修行にかかっていることをどうか忘れないでください」