インド、カルナータカ州ムンゴット
今朝ダライ・ラマ法王はデプン僧院ロセリン学堂を訪問され、講堂で僧侶たちの問答の様子をご覧になった。中観哲学のクラスの学僧たちは縁起についてと、「空性を確立した者にとっては、何事も成立する」などという主題について問答を繰り広げた。そして、「すべての現象は単に名前を与えられただけの存在に過ぎないと言うとき、この “単に” とはどういう意味か?」と質問者が問いかけて問答を続けた。
般若学のクラスの学僧たちは、唯識派が主張する「心に残された習気」についての設問や、十二支縁起についての問答を披露した。またすべての有情には仏性があるという設問についても論議を重ねた。量(正しい認識の根拠)について学んでいる学僧たちは、前世と来世が存在することを証明し、因果関係について探求する問答を繰り広げた。
問答の終了にあたって唱えられる吉祥偈には、『入菩薩行論』第1章菩提心の利益より、『すぐれた錬金術のように、この不浄なからだを宝のように尊い勝利者のおからだに変える菩提心を、堅固に維持するべきである』という偈が引用された。
法王は学僧たちが披露した問答は大変興味深かったと述べられ、デプン僧院ロセリン学堂の偉大な学者であり法王の師でもあった先代のリン・リンポチェのことを回想された。リン・リンポチェは論理を用いることについては大変厳格であった。昨日法王はリン・リンポチェがラサの大祈願祭においてゴンパサル・リンポチェと問答をされたことを思い出され、その時はリン・リンポチェの息をもつかせぬ問答にゴンパサル・リンポチェは言葉を失うほどであったそうである。
「前世や来世の存在についてすでに考察を重ねてきた僧侶もいるでしょう。しかし、基本的な人間の幸福とは何かと考えれば、大切なのは心を穏やかに日々の生活を過ごすことです。昨日、私の睡眠状態について質問された時、一切有情を救済するために成仏しようとこころざす菩提心の瞑想をしているので、私は熟睡していると答えました」
「菩提心は長寿を全うするためにも最良の修行です。生死の道をさまよう有情に安心を与える樹木であり、彷徨える有情たちの無知の闇を晴らす力強い陽光、尊い教えのミルクを攪拌して得られる美味で栄養豊富なバターに譬えられます」
「私はこれまでデプン僧院ゴマン学堂で三日間、ロセリン学堂で三日間過ごしました。これから私はガンデン僧院に向かいます。これをラサではよく、“隠遁者の山に行く” と表現したものです」
何百人もの僧、尼僧、一般人が道に出て、法王がデプン僧院を出立されるのを見送った。チベット人居住区の第3キャンプにはそれ以上の人出があり、法王はそこで停車され、建設計画のある二箇所の地鎮祭に使用する穀物を加持された。
法王がガンデン僧院大集合堂に到着されると、ガンデン僧院シャルツェ学堂法主のジャンチュプ・サンゲ師が法王を出迎えた。本堂に入ると、法王は釈尊やツォンカパ大師の仏画などに礼拝され、その間、僧侶達は『ナーランダー僧院の17人の成就者たちへの礼賛偈』を唱えた。その後、手短に護法尊堂を参拝されると、法王は法座の前に着座され、そこでお茶と甘く味付けされたご飯が参加者全員に配られた。
法王はガンデン僧院大集合堂から、ガンデン僧院シャルツェ学堂の講堂まで徒歩で移動され、そこに集まった僧侶達に向かって次のように話された。
「今日、私はガンデン僧院シャルツェ学堂を訪問し、ツォンカパ大師600年 御遠忌祈念の行事を皆さんと共にすることができます。今回は短期間でしたがデプン僧院ゴマン学堂とロセリン学堂に滞在し、これからガンデン僧院シャルツェ学堂とジャンツェ学堂にも滞在します。セラ僧院とタシルンポ僧院には来年の3月か4月に訪問する予定です」
「ここには施主や支援者の方々も大勢いらしているようです。あなた方のお陰で私たちは大変助けられています。各僧院はナーランダー大学の伝統を勉学、思索、洞察、並びに著作や問答を通じてこれまで長い間護持してきました」
「15年ほど前、わたしたちは大蔵経の内容を心の科学(心理学)、哲学的見解、宗教の実践という内容に沿って再評価しました。このように論理的に仕分けされたことにより、哲学と心理学の説明はシンプルな学術記事として多くの人々に役立っています。よき変容を望むなら、誰でも自らの心を使って自分をよりよく変容させることができます。インドで生まれたアヒンサー(非暴力)の伝統は三千年以上に亘って広く実践されてきましたが、その基盤はカルーナ(慈悲)という動機に基づいています」
法王はここで本日の行事を終えられ、ガンデン僧院シャルツェ学堂の講堂の上にある居室に入られた。