インド、マハラシュトラ州オーランガバード
ダライ・ラマ法王はロクッタラ・インターナショナル・ビクシュ・トレーニングセンターの招きにより、昨日ニューデリーから空路にてオーランガバードに到着された。法王が前回この地を訪問されたのは40年以上前の1978年である。今朝、センターに向けて出発される前に、短時間の記者会見に応じられた。
晴天に一刷きの白雲たなびく下、法王は市内から東北方面にあるロクッタラ・ビクシュ・トレーニングセンターを目指して車で出発された。このセンターはボディパロ・マハテロ師が設立したもので、法王が到着されると、出迎えの老師が法王をエスコートして来迎引摂印と禅定印を結ばれた金色の釈迦牟尼大仏像にご案内した。法王は大仏の足元で頭を下げられ、しばらくの間、祈りと瞑想を捧げられた。その後菩提樹の植樹をされ、隣接した寺院内の釈迦牟尼像に参拝された。
トレーニングセンターでは150名以上の出家僧が着座して法王をお待ちしていた。ハーシュディープ・カンブレ博士が、センター設立者で僧院長のボディパロ・マハテロ師に、ダライ・ラマ法王とスリランカのマハナヤカ・テロ師およびタイのマハテーラ長老への歓迎儀礼を要請すると、僧院長は白いショールと花束をこの三名の方々に贈呈した。カンブレ博士から、一年前にセンターが完成してから二組の僧侶団がここでトレーニングを受けたことが報告された。
ボディパロ・マハテロ師が来賓を歓迎し、法王のご訪問はインド仏教界への加持であるとして祝した。マハテロ師は、ここに来る僧侶はテーラワーダ(上座部)、大乗、金剛乗の誰でも歓迎すると述べ、僧侶は楽観的であるべきであり、彼らのすべきことは教えの理解と修行であると続けた。現在3日間にわたって開催中の世界仏教徒会議で仏教徒が実践しているように、今必要とされているのは、皆で一緒に集まるということであり、ひいてはそれが釈尊の教えを復興させることにつながると述べた。そして、アンベードカル博士が現代社会に仏教を再導入されたことと、博士のインドを強化するための努力を称賛した。
法王はこのようにお話しを始められた。
「近頃私は、小乗、大乗という言葉は使わないようにしています。テーラワーダ(上座部)の伝統に基づく教えはパーリ語で記録されており、ナーランダー僧院の伝統はサンスクリット語で記録されていますから、最近は好んで、パーリ語の伝統、サンスクリット語の伝統という言い方をしています」
「成道後、釈尊はサールナートに赴かれ、そこで仏教の基礎となる教えについて説かれました。その教えは、戒律(ビナヤ)、四聖諦(四つの聖なる真理)とその十六行相、および三十七道品です。その中でも四聖諦が最も基本となる教えとなっています」
「心を鎮め、精神を一点に集中するシャマタ(止:一点集中の力)の修行と、真理を探究するヴィパッサナー(観:鋭い洞察力)の修行は仏教に限らず一般的に行われています。しかし、仏教に特徴的なのは、体と心とは別個に、それ自体で独立して存在する自我はない、という無我の見解を説いているところです」
「皆さんは私の姿を見て、声を聴くことはできますが、私の『自我』がいったいどこにあるのかを見出すことはできません」
「釈尊が初めてサールナートで初転法輪の教えを説かれた時、釈尊はシーラ(戒律)、シャマタ(止)、ヴィパッサナ―(観)について説かれましたが、そのそれぞれが律蔵・経蔵・論蔵の三蔵に対応しています。これが釈尊の教えの基礎です。戒律は、僧侶、尼僧、男性在家信者、女性在家信者という四種の人々の戒律に相当します」
「“止” という一点集中の修行には、集中の妨げになる障りを認識する必要があります。例えば、懈怠(怠慢)、惛沈(気の緩み)、悼挙(昂奮)などです。智慧の修行には微細なレベル、粗いレベルにおける自我の理解が必要となります」
「釈尊がラジギールで説かれた第二法輪の説法は、清らかなカルマを持つ限られた弟子たちに対して説かれ、これらの教えは学術用語であるサンスクリット語で記録されました。そこで釈尊は、智慧の完成(般若波羅蜜)について説かれ、すべての現象はその現れのようには存在しない、という空の教えを説かれました。第三法輪の説法もサンスクリット語で記録されていますが、釈尊はそこで『シュニヤータ』、つまり空性を理解する微細な意識について語られました」
法王は釈尊が仏法(ダルマ)を大切にするよう指導されたこと、なかでも律蔵を尊重するようにとの教えはマハーカーシュヤパ(大迦葉)からアーナンダ(阿難)、ウパグプタ(優波毱多)、スダルシャナ(妙見)などによって連綿と伝承されてきたことを説明された。意見の対立から十八部派に分裂し、当時の律蔵の主要四派は上座部、大衆部、根本説一切有部、正量部であったが、今日では上座部と根本説一切有部、法蔵部が存続している。波羅提木叉の戒(プラーティモークシャ)に定める戒律はパーリ語の伝統でも、サンスクリット語の伝統でも基本的には同様であるが、細かな点に相違がある。
「このセンターで出家者の訓練に尽力されていることは素晴らしいことです」と法王は述べられた。
謝辞の中で、ボディパロ・マハテロ師は、ロクッタラ・マハーヴィハーラを代表して主賓の三方、ダライ・ラマ法王、スリランカのマハナヤカ・テロ師、タイのマハテーラ長老にセンターに安置されている金色の大仏のレプリカを贈呈した。マハテロ師はさらに、水晶製の仏像を法王に贈呈し、法王からもロクッタラ・マハーヴィハーラに仏像が贈呈された。
法王は長老方との昼食会に臨まれた後、オーランガバードのホテルに戻られた。明日は、法王の一般講演が予定されている。