先日ダライ・ラマ法王がBBC放送のインタビューの中で述べられた発言により動揺された方々がおられたことから、ダライ・ラマ法王庁よりご説明させていただきたいと思います。
第一に、法王ご自身の転生者が女性となる可能性はあるかという質問に対して、「もし女性であるならば、魅力的であらねばならない」とジョークで返答された件に関しては、法王に悪気は一切ありません。しかしながら法王は、ご自身の言葉によって傷つけてしまった人々がいることを深く悲しまれ、心からの謝罪の念を捧げておられます。
法王は常々、人は、外見に基づく先入観にとらわれるのではなく、地球家族という深いレベルで互いに繋がり合う必要がある、と述べておられます。法王がその実践者であることは、法王に会う機会のある人ならだれもが実感することです。転生者が女性であった場合の外見に関しての発端は1992年に遡ります。当時、法王は女性向けファッション誌「ヴォーグ」の編集者の招きで、次号の特集記事のゲストとしてパリを訪れておられました。会話の中で、その女性編集者が、女性のダライ・ラマが将来誕生する可能性について訊ねると、法王は「もちろん、その可能性はあります。女性であれば、よりお役に立つこともできるでしょう」と述べられました。そしてジョークとして、「そのためには魅力的であらねばなりません」と言い添えられたのです。少なくとも法王の返答は一部の人に対するものであり、ファッションの最前線に意識を置く人々とチームで作業をするという不慣れな環境に向けてのものでした。
法王は僧侶であり、今や80代の半ばですが、世界のさまざまな地域を訪れて目にされる物質主義社会のグローバル化と、チベット仏教の心髄である輪廻転生にまつわる複雑で深遠な思想との矛盾点について鋭い感覚をお持ちです。しかしながら、ある文化的背景において愉快に受け止められる発言が、別の言語に翻訳された際にユーモアを失うことが時として起こります。法王は、いかなるものであれ、その発言に不快な気分を生じさせる可能性があったことを残念に思っておられます。
法王は生涯にわたり、女性を物として見ることに反対してこられ、女性および女性の権利を支持されるとともに、男女平等と女性尊重を支援する国際的な機運の高まりを称賛してこられました。法王のリーダーシップの下で、亡命中の尼僧のなかにはゲシェマ(女性の仏教哲学博士)の学位を取得した人たちもいます。かつては男性僧侶のみに限られていたハイレベルの奨学金が、女性も受けられるようになったのです。法王はたびたび、女性の指導者が増えたなら、この世界はより平和になるだろう、と述べておられます。
同じBBCのインタビューにおいては、法王が示された移民・難民危機についての見解にも誤解が生じている可能性があります。自国を逃れた人々の多くが帰国を望まないかもしれないこと、あるいは帰国できないかもしれないことを、法王は確実に理解しておられます。チベット人の場合は、祖国に帰還するという願いを抱いていますが、取り返しがつかないほど変わり果てた祖国を目にすることとなるでしょう。しかしながら法王は、難民や移民を受け入れる国々の不安や苦労もまた理解しておられます。2016年6月13日付けの「ワシントン・ポスト」紙の論説において、法王はこの重大な問題についての次のように記されています。
「世界中の多くの一般市民が、海から助け上げられた難民の窮状に対して深い思いやりを示し、自国に受け入れ、友情と支援の手を差し伸べています。これは実に勇気づけられることです。私は自身が難民であることから、難民が置かれている状況に強い共感を覚えます。彼らの苦悩を見るにつけ、できるかぎりのことをして彼らを助けなければならないと思うのです。また私は、受け入れ国の人々のなかに難民に圧倒されそうな不安を感じている人がいることも理解できます。こうした事情を考え合わせると、きわめて重要なのは、難民を生み出している国々に真の平和が取り戻されるよう、力を合わせて行動することなのです。チベット人難民は身をもってこうした状況を経験してきました。私たちはまだ祖国に戻れてはいませんが、米国民をはじめ、世界中の友人から何十年間にもわたる人道的支援を受けてきたことに心から感謝しています」
また法王は、2017年9月にイタリアのパレルモにおいて、ヨーロッパの国々は移民や難民を受け入れてきたことで、思いやりを行動で示したとして、次のように明言されました。
「現在、難民は絶望的状況にあり、私たちは彼らを助けなければなりません。しかし、ゆくゆく彼らは自分の国に帰りたいと望むようになるでしょう。これはわれわれ亡命チベット人が絶えず心に抱いていることでもあります。まずは、逃れてきた国々に平和と発展が取り戻されなければなりませんが、長い目で見れば、生まれた国で暮らしたいと願うのは当然のことでしょう」
法王は常々、「わたしたち」「あの人たち」という考えかたは争いの種である、と警告しておられます。そして、今日われわれが直面している世界中の問題の多くは、人間はみな人類というひとつの家族に属する兄弟姉妹であることを思い出すことによって解決できるのであり、目の前に立ちはだかる地球規模の問題に対しても、共に立ち上がって取り組むことができる、と提言しておられます。
2019年7月2日
ダライ・ラマ法王庁