インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ダラムサラ
今朝、ダライ・ラマ法王は、ナーロー・バンチェン仏教徒協会(Naro Banchen Buddhist Institute)とオフィス・オブ・チベットのモスクワ支局主催による三日間のチベット・モンゴル修養会に参加したモンゴル人の学者、政治家、医師ら47人のグループと会見し、次のように語られた。
「チベットとモンゴルは、仏教が普及する以前から、国境を共有する隣人でした。唐の時代の歴史家たちは、強い軍隊のモンゴル、政治的駆け引きの中国、仏教に熱心なチベット、と各国の特徴を言いあらわしていました」
つづけて法王は、次のように話された。仏教は8世紀にチベットで定着し、ナーランダー僧院の偉大な導師たちの手による論書が僧侶たちの教本となった。仏教がモンゴルに伝えられた時期には三段階あり、第一期は、仏教が中央アジア全体に広まった紀元後初頭の数世紀、第二期はチベットからサキャ派の座主ドゴン・チュゲル・パクパが招聘された13~14世紀、第三期は、ダライ・ラマ3世・ギャルワ・ソナム・ギャツォがツォンカパ大師の教えをモンゴルに伝え、それがモンゴル全体に広まったのが16世紀のことである。これにより、現在のモンゴル国、ならびに、ロシア連邦を構成するブリヤート、カルムイク、トゥヴァの3共和国といった地域から、大勢の優れた仏教学者が輩出された。
「私がモンゴルを初めて訪問した1979年、モンゴルはまだ共産党の支配下にありましたが、仏教に対する信仰が人々の間に深く生き続けているのを目の当たりにして、大きな感銘を受けました。信仰は、あらゆる宗教的伝統においてその一部をなすものです。モンゴルでは、信仰が世代を超えて受け継がれています。とはいえ、ナーランダー僧院の伝統では、信仰は、論理と哲学によってさらに深められています。現代を生きる私たちは、21世紀にふさわしい仏教徒として、仏陀が説かれた教えの内容を正しく理解することが大切です」
「科学と技術の時代にあっては、単なる信仰と祈りだけでは不十分です。仏教徒は、仏陀の教えとは何かを理解する必要があります。ナーランダー僧院の偉大な導師たちの著作を学ぶことは、理解を深めるのに大変役に立ちます。仏法を学び、学んだ内容を検証し、それについて瞑想する、という聞・思・修の修行をすることにより、仏教が生活の一部になるでしょう。仏教は、モンゴルの伝統宗教です。しかし、信仰のみを頼りとした実践では、仏教は数十年後には生き残っていないかもしれません。一方、論理と正しいよりどころに基づいた実践であれば、何世紀にもわたって継承されていくことでしょう」
法王は、近年、現代科学者と実りある対話ができるのも、ナーランダー僧院の伝統に基づく仏教が論理と正しいよりどころを土台としているからであり、仏教徒は科学者から物質的な世界について多くのことを学び、逆に科学者は、仏教の説く、心や感情の働きなど内面的な世界についての情報を学んでいる、と述べられた。
さらに法王は、現在、南インドの僧院で数百人のモンゴル人が学んでいるのは喜ばしいことであり、彼らが、モンゴル国、ブリヤート、カルムイク、トゥヴァの3共和国において、仏教の復興に貢献できるようになるのを楽しみにしている、と述べられた。
参加者からの質問に答えて、法王は、心を訓練することの必要性を強調された。宗教を実践するしないにかかわらず、人は倫理観を持って生きる必要があり、そのためには、世俗の倫理観に関心を持つとよいと奨励された。世俗の倫理観を持つことと、チベットやモンゴルの仏教徒が育んできた温かい心という基盤は、同じものだと述べられた。