インド、ジャンムー・カシミール州ラダック、ヌブラ渓谷スムル
ダライ・ラマ法王は、3日連続でサムタンリン僧院の最上階にある法王の居室から法話会場まで歩いて向かわれた。僧院の中庭や入口の奥には、法王の目にとまることを願う多くの人びとが集まっており、法王は微笑んで手を振りながら、できる限り多くの人たちと短い言葉を交わされた。法話会場のステージに到着されると、法王は眼の前に居並ぶ人びとの顔を見つめられ、微笑んで手を振られた。それから法王は着座され、長寿の灌頂を授与するための前行修法(準備の儀式)を始められた。経頭はその間ターラー菩薩の真言を唱え、聴衆もそれに合わせて真言を唱えた。
法王は準備が整うと、聴衆に向けてお話を始められた。
「ここ数日たくさんの人びとに会い、夏季高等宗教会議2018(夏期大問答会)を開会し、昨日は説法をしました。そこで今日は結びとして吉祥を願い、如意輪白ターラー菩薩の長寿の灌頂を授与いたします」
「善き心の動機を持ち、いかなる現象も固有の実体としては全く存在していないことを心にとどめておいてください。逆境に立たされた時も、それを悟りに至る道へと変容させてください。菩提心と空の理解を心に保ち続けるなら、何をしていても有益な行いとなるのです」
「昨日説明したように、仏陀の教えの心髄は利他の実践です。すべての宗教が利他の実践を説いていますが、仏教的なアプローチでは、利他の行い、その行為者、行為の対象となる人がすべて自性を欠いた空の本質であるとみなすことが重要です。長寿の灌頂を始めるにあたり、あたたかい心を保って長生きしようという思いを定めてください。もちろんこの灌頂は密教の実践に関わるものですが、顕教の観点からすれば、私たちが焦点を当てるべき実践は、究極的に仏陀の色身(利他行をなすための形あるおからだ)と法身(智慧を体現する真理のおからだ)を実現することなのです」
灌頂の一環として、法王は集まった人びとに菩薩戒を授けられた。その儀式が完了すると、法王に捧げるご長寿祈願法要が始められた。この法要は僧侶たちだけでなく、今までの要所要所で法王のご訪問を取り仕切った地元の関係者たちによって執り行われ、一方で、ステージの下には歌や踊りを披露する人びとがいた。『不滅の歌』、法王のお二人の家庭教師が記された法王のご長寿祈願文、『十六羅漢への祈願文』、『無量寿仏(阿弥陀仏)の祈願文』などが唱えられて、法要が締めくくられた。
法王は僧院の居室に戻られると、ガンデン僧院前座主リゾン・リンポチェとラジャ・サバテレビの元職員ティクセ・リンポチェと共に昼食をとられた。法王は明日、レーに戻られる予定である。