ラトビア、リガ
今朝、ダライ・ラマ法王がスコント・ホールに向けてホテルを出発される時には、一目でも法王のお姿を拝見しようとする200名近い人々がホテルのロビーで法王を待ち受けていた。多くの人がお加持をいただこうと写真などを手に持っており、警備員たちは、法王に少しでも触れようと両側から押し寄せる信者たちを押しとどめるのに苦心していた。
法話会場に到着し壇上の席に着かれると、法王は、仏陀が自らのかき乱された心を鎮めるようにと説かれたことからお話を始められた。
「そのためには、目の前の状況を冷静に捉えて分析する力が必要であり、それによって苦しみを生み出すネガティブな感情(煩悩)を克服することができるのです。ですから、なかなか言うことを聞かない暴れ馬のような自分の心の欠点を認識することが大切です。かき乱された心を鎮めることができれば、苦しみを減らすことができます。それゆえ仏陀は、錯乱した自分の心を鎮めるための方法論を説かれ、それをを教えの心髄とされたのです」
そして、心に平和をもたらすためには、神仏に祈願するだけでは充分ではないことを法王は強調された。心の働きについてよく理解し、煩悩にどう取り組めばいいのかを学ぶことこそ、何よりも重要なことなのである。
法王は、シャーンティデーヴァ(寂天)の『入菩薩行論』を読むようにと聴衆に勧められ、特に忍耐について説かれた6章と、菩提心を育むために自分と他者の立場を入れ替えて考えるという修行について詳しく解説されている8章、智慧について書かれた9章に特に注意を払うようにと述べられた。
「仏教徒でない人々にとっても、6章と8章からは得るものがあるはずです。そこに書かれていることはすべての人に共通した教えとなっているからです。例えば、忍耐についての解説を読めば、仏教で説かれている涅槃や来世などについて触れることなく、怒りを減らしていくための現実的な対策が説かれていますし、実際に、このふたつの章で説かれている忍耐と利他行に関するアドバイスは、他の宗教の教えの中でも同様に説かれているものだからです」
法王は『金剛般若経』の読誦に戻られ、テキストの最後まで読み終えられると次のように述べられた。
「私が仏教国以外で仏教の教えを説くとき、特に、ユダヤ教やキリスト教などを信仰している方が多い場合、ためらいを感じることがよくあります。しかし、ここに集まった方々のほとんどが仏教徒であるということから、ここではそういう懸念を感じることなく快適に説法をすることができました」
この日も法王は招待客のグループと昼食を共にされ、その後スウェーデンとラトビアのインド大使と会見された。
ホテルに戻られる前に、法王は、ヨーロッパ各国から法話会に参加している約75名のチベット人との謁見に応じられた。そして、仏教を学ぶことがどれほど重要なことであり、チベット人が教えをよく理解して仏教を維持し、繁栄させていく中心的役割を果たすべきことを述べられた。さらに法王は、ゆくゆくはチベット仏教の伝統が中国の人々の役に立つだろうとも語られた。
法王は中道のアプローチについてのご自身の取り組みについて短く触れられて、それこそが双方に利益をもたらすひとつの解決策であり、チベットは独立を求めず中華人民共和国の枠内に留まる方が望ましいというお考えを明らかにされた。
最後に法王は、チベットの伝統的文化遺産に誇りを持って幸せに生きていくようにと励まされた。そして若者たちに向かって、「いつの日かチベットに帰るのだという希望を失わないように、そしてそれまでの間は、将来母国の発展に寄与できるよう科学や技術などの近代的な知識や教養を学んで身につけることが重要である」と諭された。
明日は法話会の最終日であり、法王は千手観音菩薩の灌頂と白文殊菩薩の許可灌頂を授与される予定である。