ラトビア、リガ
15日、ダライ・ラマ法王はバルト海を飛行機で越え、ラトビアに到着された。リガ空港では招聘団体の地元ラトビアとロシアの人々が法王を出迎えた。ご滞在先のホテルで大勢の人々からの歓迎を受けられた法王は、笑顔で手を振りながら多くの人々との握手に応じられた。
翌16日、法王はまず、法話会場となったスコント・ホールの控室に集まった約40人の報道関係者と会見された。法王は短いコメントをされた後、報道陣からの質疑応答に答えられた。
自信をもって正しい決断をするにはどうしたらよいかという質問に対して、法王は次のように答えられた。
「私たち人間は洗練された知性を持っていますが、その知性を正しく用いるすべを学ぶ必要があります。自らの欲求だけを頼りに決断し、行動をするべきではありません。そのような決断は一時的な満足感をもたらしてくれますが、私たちは動物と違ってすぐれた知性を備えているのですから、正しい根拠に基づいて、自分がなした行為の結果を見極める能力も持っているのです。さらに、その行為が社会的に受け入れられるものなのかどうか、自分の健康にとって役立つことなのかどうかを考えることもできます。そして、自分が直面している状況を現実として受け止め、よく考えて行動しなければなりません。物事を一つの角度から見るだけでは十分ではないのです。感情に流されず、あらゆる側面から客観的に物事を観察することにより、より良い結果をもたらすことができるのです」
次にワールドカップについて、応援しているチームがあるかどうか、また競争についてどう思われるかとの質問を受け、法王は以下のように答えられた。
「一位になるために全員が一丸となって立ち向かうことは健康的で建設的な姿勢だと思います。しかしながら、ライバルに勝つために相手の邪魔をするようなことは良いことではありません」
「私はスポーツにあまり興味がないので、個人的に応援しているチームはありません。若かったころ、私はバトミントンと卓球を少しやったことがあります。1954年と1955年に北京を訪問した時、中国の周恩来国務院総理と卓球をしましたが、総理には少し障害があったため、簡単に勝てると思ってしまい、私の動機は良いものではありませんでした」
その後、法王が会場の大ホールに到着されると、4,000人の聴衆がカタを振りながら法王を歓迎し、続いてラトビア語で『般若心経』が唱えられた。
法王は次のようにお話を始められた。
「私は再びリガを訪れることができて大変嬉しく思っています。ロシアの友人の方々も沢山いらしてくださったようです。私たちは皆、ナーランダー僧院の伝統に従う者同士ですから、私は皆さんに仏教の教えについて解説する義務があると感じています」
法王は、チベット仏教において維持されてきたナーランダー僧院の伝統の心髄は、正しい根拠に基づく論理的なものの考えかたであると説明された。この伝統は8世紀にチベットの仏教王が招聘した偉大なるナーランダー僧院の師シャーンタラクシタ(寂護)がチベットに伝えたものである。
「私たちは根源的煩悩である無知によって、怒りや欲望などの煩悩を引き起こしています。仏陀は『二つの真理(二諦)』すなわち、『世俗の真理(世俗諦)』と『究極の真理(勝義諦)』について説くことにより、すべての現象の現れかたと究極のありようは食い違っているということを指摘されたのです。仏教哲学の各学派は二諦について異なる解釈をしていますが、ナーガールジュナ(龍樹)は縁起の教えに基づいて、“固有の実体としてそれ自体の側から存在している現象は何一つ存在していない” という空性の理解によってのみ、無知を根本的に晴らすことができると述べておられます」
法王はまず始めに『金剛般若経』を読み上げられ、その途中で、ツォンカパ大師の『縁起讃』の読誦に切り替えられて、それを最後まで読み上げられた。
ご滞在先のホテルに戻られる前に、法王は招待客と昼食を共にされた。法話は明日も引き続き行われる。