インド、カルナータカ州ベンガルール(バンガロール)
今朝、映画監督のバラシュ・スバラオ氏夫妻がダライ・ラマ法王に新しいスマホ・アプリ「マンダラ(Mandala)」を紹介した。このアプリは仏教の智慧と心理学的洞察を統合し、使用者にわかりやすく手軽に提供して毎日の生活に役立ててもらおうという趣旨で開発された。開発段階では、ガンデン僧院の仏教博士最高位、ゲシェ・ラランパを取得し、のちに英国ケンブリッジ大学で哲学修士号と宗教学博士号を獲得したのち還俗したトゥプテン・ジンパ氏が尽力した。ジンパ氏は1985年以来法王の通訳として活躍するかたわら、多数の書籍を翻訳、編集した実績を持つ。
現在「マンダラ」アプリは、英語・フランス語・スペイン語・ロシア語・中国語版があり、学習メニューには多くの講演や対話が格納され、仏教の智慧と科学的洞察を統合して提供している。これにはダニエル・ゴールマン氏はじめ、高名な科学者やライターが協力した。生活項目には誘導瞑想シリーズがあり、探究の項目を見れば、仏教の基本理念をより深く掘り下げることもできる。
法王は、人々が心の平安と優しい心を育めるように、それが容易に明快に入手できるようにという設計指針を喜ばれた。
程なくして法王の車列はパレス・グラウンドのキングス・コートに到着され、法王のお言葉を聞きたいと熱心に望んで待機していた総勢2,500名の内訳は、大半がチベット人学生で300名ほどがブータンその他ヒマラヤ地方からの人々であった。今回の講演はガンデン僧院ジャンツェ学堂が施主を務めた。
首席代表のチョペル・トゥプテン氏が、入口で古式ゆかしく法王を出迎えた。講堂の中では歌手や楽団が演奏を披露し、法王は笑顔でご覧になった。チョペル・トゥプテン氏はこれまでの実績と今後の抱負を簡単に述べたのち、法王に講演をお願いした。
「カルナータカ州のチベット人居住区をずっと巡ってきて、その間、風邪をひいて少し疲れてしまいましたが、今日ここ、ベンガルールに到着し皆さんの顔を見てとてもうれしく思っています」
「チベット人は自国で非常な困難に直面しました。私たちは湧きおこった困難にどうにか対応しようと多くの努力を払いましたが、紛争の究極的解決を見いだせず、亡命の道を取ったのです」
「チベット本土のチベット人は、勇敢な精神と宗教、文化に対するゆるぎない信心を持っています。 インド、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアなど世界中どこにいたとしても、私たちがチベット人であるということを忘れたことは決してありません。それが私たちの血です。15万人の自由な生活ができる亡命チベット人が、チベット本土の兄弟姉妹たちの希望の源なのです」
法王は、米国はチベットのために中国と戦争することは決してない、というネルー首相の言葉を回想された。その後1974年にはチベットの独立を求めないことが決定され、国連にもこれ以上のアピールをしないことも決定された。ネルー首相は早晩中国当局との交渉は避けられないことを強調した。中国憲法はチベットの自治を標榜している以上、実行されねばならない。ウツァン・カム・アムドというチベット三域に住むチベット人は、自身のアイデンティティーと文化を保持する必要がある。法王は、鄧小平主席の改革解放運動により締め付けが緩和し、同主席が対話への意欲を表明した時点から中道的アプローチが発展したことを指摘された。文化大革命の狂乱の後、法王は中国が常識の通用する社会になることを期待されていた。
法王は20世紀に起きた戦争で膨大な戦死者が出たこと、そして現在でも暴力が横行していることを深く嘆かれた。マハトマ・ガンジーが非暴力不服従運動を開始すると、反対者は、それは弱さを示すことだと批判したが、結局勝利したのはガンジーであった、と述べられた。
法王は学生たちに向かって、もし古代インドの智慧が生かされれば、世界平和に貢献できることを確信している、と話された。
質疑応答の中でラダックの少女が、ダライ・ラマ法王はいつもご自身のことをひとりの僧侶に過ぎないとおっしゃるが、チベット人やヒマラヤ地域の人々は法王のことを観音菩薩だと思っている、と述べて、これについてのお言葉をとたずねると、法王は次のように回答された。
「今年ラダックを訪問した時、一人の少女から直接『あなたは神様ですか?』と聞かれたので、『いいえ』と答えました」と法王は笑いながら語られて、次のようなお話をされた。
「初代ダライ・ラマであるゲンドゥン・ドゥプは観音菩薩とターラ菩薩のヴィジョンを得ており、第二代から第十三代までのダライ・ラマも皆、清らかなヴィジョンを得ています。私はアムド地方のクンブム僧院付近の寒村に生まれました。摂政がラモ・ラツォ湖の上に見たヴィジョンに基づいて捜索隊が村に派遣されてきました。ラモ・ラツォ湖は、チベット政府とダライ・ラマの守護尊であるパルデン・ラモゆかりの湖であることがダライ・ラマ2世ゲンドゥン・ギャツォによって発見されたので、現世のダライ・ラマはパルデン・ラモが認定したと言えるかもしれません。私は歴代のダライ・ラマとカルマによる強いご縁がありますから、パルデン・ラモが助けてくださるのです」
「私は過去世について数種類の夢を見ました。ひとつの夢の中では、古代エジプトで私は囚人でしたが、ファラオの命令で釈放されました。インドの達人、クリシュナチャーリヤや、デプン僧院の創設者ジャムヤン・チュージェとの深いつながりを示唆するような夢もありました」
「それはともかくとして、私たち誰にも過去世がありますが、大切なことは、今現在の人生を有意義に送ることです」
最後のアドバイスとして、法王はできるだけ他者を助けること、できないときは少なくとも他者を傷つけないことを若い人たちに望まれた。