インド、マハラシュトラ州ムンバイ
昨日ダライ・ラマ法王は、ダラムサラからチャンディーガルを経由してムンバイに移動された。今朝、法王は曇り空の隙間から日が照らす街を車で移動し、ソマイヤ・ヴィッダヴィハール(Somaiya Vidyavihar)のキャンパスに到着された。ソマイヤ・ヴィッダヴィハールのモットーは「知識のみが自由をもたらす(‘Knowledge Alone Liberates’)」である。法王は、以前から知り合いである学長のサミール・ソマイヤ氏夫妻に出迎えられた。サミール・ソマイヤ氏はソマイヤ学校創設者の孫である。
最初に、法王は建物の階段の上から学校の生徒たちにお話をされた。
「おはようございます。みなさんお元気ですか?昨夜はよく眠れましたか?私は9時間眠り、日課の瞑想を行うために今朝、午前3時に起きました。瞑想によって心を明晰にすると、現実のありようについて深く考えることができます。瞑想の中で、自分自身の感情について考え、‘なぜ私は怒っているのか?’ と自分自身に問いかければ、あたたかい心など、ポジティブな感情がもたらす利点とその基盤について理解することができます。私は人生においていくつもの困難に直面してきましたが、この心の訓練から得た心の平和は、困難に対処するためにとても役立ちました。心の穏やかさが肉体的な健康と健全な精神の支えであり、感情を清らかに保つためにも関係していることに気づきました」
法王は子どもたちに尋ねられた。
「微笑んでいる人と、眉をひそめている人と、どちらが好きかですか?友だちを引き付けるのは、お金や政治の力ではなく、あたたかい心で笑っていることなのです。インドの素晴らしさは人口が多く、民主主義国家だというだけではありません。古代からの智慧を維持していることです。古代インドの智慧を現代教育に取り入れる努力をしてください」
ソマイヤ・ヴィッダヴィハールの講堂では350人の若者が法王のご到着を待っていた。法王は着席してお話を始められた。
法王は次のように話を始められた。
「私は長い間、ソマイヤ家と親しい関係を築いてきたので、またここに来られて大変うれしく感じています」
「人類のユニークな点の一つは、人間の脳です。 脳は私たちに、言語と、外の世界に現われる現実を分析する能力を与えてくれました。これは釈尊が教えておられることです。もちろん、釈尊は仏教の開祖です。しかし、私は、釈尊は偉大な思想家であり哲学者であると考えています。釈尊は ‘僧侶よ、私の教えを単なる信心から鵜呑みにするのではなく、金細工職人が金を焼き、切り、こすって、金の純度を満足できるまで鑑定するように、その教えを自分で調べて分析し、確信を持った上で信心するべきである’ とアドバイスされています。ですから、私は、釈尊は科学者のような方だとも思っています」
「私は7歳の頃からナーランダー僧院の成就者たちの著作を学び始めました。当初は嫌々学んでいましたが、13歳くらいになってから、私は彼らの教えが心を鋭く保ち、私たちの悪しき感情を抑えるのに役立つことを理解し始めました」
「私たちがインドに亡命した際、私たちの目的は知識を守り、維持することでした。私は、ネルー首相、ラジェンドラ・プラサド初代大統領、ラダクリシュナン第二代大統領に助けを求め、インド政府は僧侶たちに特別な支援をしてくださいました」
「1973年、私はヨーロッパを初めて訪れました。1979年にはソ連と米国にも行きました。私は各地で数多くの人々、学者、科学者に会いました。それらの地域では、物質的に発展し、発展を享受しているにも関わらず、人々は驚くべきレベルのストレスと不安を経験していることに私は気づきました。誰も問題を望んでいないのに、私たちが直面している多くの問題は私たち自身が作り出しています。かき乱された感情(煩悩)は、私たちの心の平穏を乱し、私たちの健康を破壊し、家族や共同体を混乱させてしまうのです」
「私たちは社会生活を営んで生きて行く動物ですから、友人が必要です。友人は信頼を土台として作ることができ、信頼は愛情と他者へのおもいやりによって築くことができます。信頼は、お金で買うことも、力を使って得ることもできません。その源はあたたかい心ですが、現代の物質志向の教育システムでは十分に育めてはいません。それに、現代教育は、自分のかき乱された感情(煩悩)にどのように取り組むべきかについても教えていません。その結果、悩みの多いこの世界において、ナーランダー僧院の成就者たちから得た知識によって、チベット人が人類の幸福に貢献できることに私は気がついたのです」
「先日私は別の講演会で、釈尊も、マハトマ・ガンジーも、インドの文化によって形作られた方々であったことをお話しました。私たちにも、この古代インドの智慧を学び、実践し、実行するチャンスがあるのです」
さらに法王は、次のように述べられた。
「平和に関しては実に多くの話し合いがされている一方で、私たちはまだ核兵器が存在する暴力的な世界に住んでいます。核兵器がなくなることを望むだけでは十分ではありません。核兵器廃絶のためのタイムテーブルが必要であり、我々はそれにこだわり続けなければなりません。私は、今年の核兵器廃絶キャンペーン(ICAN)に対するノーベル平和賞授賞を心から喜んでいます。私はオバマ元大統領がこの方面で活動を続けるよう励ましています」
短いお茶の休憩時間の後で、法王は聴衆からの質問に答えられ、生まれ変わりの理論について説明された。身体は意識が生じるために必要な条件であるが、意識の実質的な因となるのはやはり意識である。したがって、意識には始まりがないと仏教では考えられている。法王は、前世についてはっきりと記憶している2人の幼いインド人少女と、2人の幼いチベット人の男の子と会ったことを証拠として示されて、ご自身が幼い頃にもそのような記憶を持っていたことを語られた。
法王は、仏陀釈迦牟尼は、倶留孫仏(クラクチャンダ仏)、倶那含牟尼仏(カナカムニ仏)、迦葉仏(カシャパ仏)に続く、賢劫(幸運な劫)の第四の仏であると説明され、釈尊が悟りを得られた後のお気持ちを表現する一節を引用された。
「深く(甚深)、静かで(寂静)、妄分別なく(戯論を離れ)、光り輝く(光明)、作られたものではない(無為)甘露のごとき法を私は得た。しかし、この法は誰に説いても理解することはできないだろう」
続いて、法王は次のように説明された。
「しかし、49日後、釈尊はかつての苦行仲間に、サールナートで最初の教えを説かれました。これが釈尊の教えの根幹である ‘四聖諦’ の教えです。苦諦(苦しみが存在するという真理)、集諦(苦しみの原因が存在するという真理)、滅諦(苦しみの止滅が存在するという真理)、そして道諦(苦しみの止滅に至る修行道が存在するという真理)を説かれたのです」
法王は聴衆に向かって、釈尊の説かれた智慧についての教えを本当に知りたければ、ナーガールジュナ(龍樹)の素晴らしい著作『根本中論頌』を読んで学び、考えるべきだと述べられて、シャーンティデーヴァ(寂天)の『入菩薩行論』にも、サンスクリット語原本と英語の翻訳書があると付け加えられた。
法王は、この生きた知識を維持していくために尽力していきたいとのお考えを伝えられて、現代のインド人たちが古代インドの智慧を復活させるという使命に関わっていくことを賞賛された。
その後法王はチャナキャ・ホールへ移動され、350人の聴衆とともに健康的で伝統的なインドの昼食を召し上がられた。昼食後、法王は会場を後にされた。
明日、法王は引き続き、二日目の法話を行われる予定である。