インド、ジャンムー・カシミール州ラダック地方レー
遠方の丘にかかった雲の裾野を朝日が染める頃、ダライ・ラマ法王はヌブラ渓谷スムルのサムタンリン僧院を出発された。同僧院の僧侶たちは、年老いた者も年若き者もみな、法王をお見送りしようと集まっていた。僧院から目抜き通りまでつづく道は、地元の人々によって昨夜のうちに掃き清められ、打ち水がされていた。今日は地元の人々の多くがラダックの伝統衣装を着て、お香やカタ(チベットの儀礼用のスカーフ)、生花や派手な色合いの造花の花束を手に沿道に並んでいた。吉祥を表すため、一杯に注がれたミルクの器の縁にヤクのバターを少量つけたものを捧げ持っている女性もいた。
法王ご一行の車列はカルドン峠に向けて人けのない道路を走り出した。ご一行は頂上の手前の白い仏像が立っている地点で車を停めて休憩され、ティクセ僧院座主ティクセ・リンポチェが用意されたお茶と軽食を振る舞われた。そこで法王は、法王のお姿をひと目見ようと集まっていた地元の人々と少し歓談され、あたたかい心を育むことの大切さを説かれて、観音菩薩とターラー菩薩の真言を授けられた。また法王は、出発前にリクエストに応えて近くにあるシャヨク川の水源に加持を与えられた。
一行は峠の頂上で再び車を停めた。この道は車で走行できる世界でもっとも高い標高5,359メートルを通っている。法王は、旅行者のために峠に設置された医療施設へのご訪問をというに要請に応じられた。このときもまた、法王のお姿をひと目拝見しようと人々が集まっていた。溶けかけた氷や岩、泥が混じったものによって小規模な地滑りを起こして崩れてしまうため、ここでは道路の両側を定期的に修繕しなくてはならない。道路工事にあたる人々は法王の車が通ると手を振って歓迎した。法王ご一行は峠を降りる途中でもう一度車を停めて休憩され、集まった人々のもてなしを受けられた。
やがて道が下るにつれてレーの街が遠くに見えはじめ、シャンティ・ストゥーパがこれまでにない近さで目の前に現れた。その後、法王ご一行の車が街へ入ったときには、老いも若きも、地元の人も外国人旅行者も、それこそレーの住人全員が法王のご帰還を歓迎しているかのようだった。法王が乗られた車が通り過ぎると、法王が自分を見てくださったと言って連れの者と抱き合って喜ぶ者もいた。
法王は静謐な聖域、シワツェルの法王公邸に到着され、昼食を取られた。法王は明朝早く、4日間のザンスカール訪問に出発される。