アメリカ、ミネソタ州ミネアポリス
鮮やかな青い空の朝、ダライ・ラマ法王は今日、ミネソタ州のチベット人会の人々と会うために、ミネアポリスのコンベンションセンターへ車で移動された。法王は、ミネソタ州のチベタン・アメリカン・ファウンデーション(TAFM)代表のソナム・ドゥンドゥプ氏から歓迎を受けられ、ドゥンドゥプ氏は法王にミネソタ州上院議員キャロライン・レイン氏、ミネアポリス市長ベッツィー・ホッジス氏、国会議員ベティ・マコラム氏を紹介した。法王はステージに上がる前に、彼らおよび市長や政府議員たちと簡単な挨拶を交わされた。
ドゥンドゥプ氏は、聴衆の前で国会議員のベティ・マコラム氏を紹介し、マコラム氏が米国超党派議員代表団のナンシー・ペロシ氏と共にひと月前ダラムサラを訪問したことを法王に告げた。
ベティ・マコラム氏は法王に以下のように述べた。「どうかチベットの方々のための、私たちの力強いサポートをミネソタで受け取ってください。2015年、私はチベットにいました。山々を見て、胸いっぱいに新鮮な空気を満たし、チベットの人びとの温かさに出会いました。しかし、彼らは自由ではありません。中国人にとって、宗教上の自由に対する制限を解除し、人権侵害を止めるには時が経ち過ぎてしまいました。私は中国領事館から、法王に会わないようにという圧力がかかった手紙を一通受け取りました。私は議会とアメリカの人びとに、チベット人を支持するよう要請します。中国が強い力を持つ国であることに疑いはありませんが、アメリカもまた強い力を持つ自由の国なのです」
ミネアポリス市長ベッツィー・ホッジス氏は、法王がミネソタに再び戻られたことを歓迎し、「ここに法王をお迎えできることを大変光栄に思います」と述べた。ホッジス氏はミネアポリスにおいて、今日6月24日を“平和と慈悲のダライ・ラマ法王の日”とすることを宣言した。セントポール市長のクリス・コールマン氏もまた、セントポール市において同日を“ダライ・ラマ法王の日”とすることを宣言した。コールマン氏は思いやりについて昨日法王が述べられたことに感謝の意を表した。最大規模のチベット人居住区があるコロンビアハイツ市長のドナ・シュミット氏は、その都市の人びとが提出した祈念と祝詞の本を法王に贈呈した。
チベットの古くからの友人である、ミネソタ州上院議員キャロライン・レイン氏は、「この場に参加できたことは大変光栄なことであり、法王猊下を私どものところへお招きできることを常に喜ばしく思っています」と述べた。それから幾人かの地方議員たちが挨拶を続けた。チベット人の心強いサポーターであり、長期にわたる友人でもあるミネソタ州知事のマーク・デイトン氏と同様に、連邦議会議員のケイス・エリソン氏は今日の会見に参加することはできなかったが、その代わりに代理人を送っている。法王は、彼らによる挨拶の言葉および友好関係と協力的支援などの全てに対し、感謝の意を表された。
法王は、法座からチベット語で参加者に向けて講演をされ、以下のように述べられた。
「兄弟姉妹の皆さん、私たちはお互いにこのようにして会う必要があります。今日、世界の多くの地域において私たちは問題に直面しており、その多くは私たち人間が作り出した問題です。私たちが生まれた時、そして成長していく過程において、国籍や肌の色、信仰する宗教の違いなどについて気にすることはほとんどありません。しかし、成長して大人になると、“私たち” “彼ら”などと区別して考えるようになってしまうのです。2011年以降、私は政治的責任者としての立場から完全に引退し、今では選挙で選ばれた指導者が政治的な責任を負っています。ですから、私がまだ責任を感じて伝えるべき懸念事項は、自然環境についてです。アジアの主要な河川はチベット高原を源に発し、10億人以上もの人びとがそれらの河川の水源に頼って生きていますので、チベットの生態系において現在起こっている問題は、幅広い影響を与えています。
私は、インドのナーランダー僧院からチベットに伝えられた仏教の伝統の将来についても懸念しています。7世紀にチベットのソンツェン・ガンポ王が中国人とネパール人の貴妃たちと結婚してから、チベットと原始仏教の接触が始まりました。中国との婚姻関係があるにも関わらず、8世紀に現れた仏教王ティソン・デツェンは、チベットに仏教をもたらすためにインドからシャーンタラクシタ(寂護)とパドマサンバヴァを招聘することを選びました。私たちは偉大なこの三人の方々を、僧院長、阿闍梨、仏教王と呼んで称えています。シャーンタラクシタは、チベットのナーランダー僧院の伝統をチベットに広めてくださった偉大な哲学者であり、論理学者でした」
「それ以来、私たちは厳密な勉強と瞑想修行を結び合わせることにより、ナーランダー僧院の伝統を維持してきました。亡命者社会において私たちの伝統を守ることはきわめて重要なことでしたので、チベット人居住区には普通教育の学校を設立し、科学者たちとの対話に従事してきました。心と感情の働きに関する古代インドの智慧は、私たちチベット人の間で今も生き続けています。シャーンタラクシタはまた、仏教の経典をチベット語に翻訳する事業を進め、70歳の老齢にしてご自身もチベット語を学んだと言われています。パドマサンバヴァは仏教の導入に際して数々の障害に遭われましたが、その力を退けられました」
法王は、マイトレーヤ(弥勒)が、仏陀を医者にたとえられ、その教えを薬にたとえられ、僧伽(出家者の集まり)を看護師にたとえられたことを説明された。そして私たちが全ての煩悩とその習気(残り香)を克服した時が、解脱の段階であると説明された。
法王は、ナーガールジュナ(龍樹)が説かれたことについて何十年も考えた末に、その教えがいかに重要であるかを理解することができるようになったと語られた。法王はまた、「二つの真理」(二諦)と「四つの聖なる真理」(四聖諦)、特に「苦しみの止滅が存在するという真理」(滅諦)と「苦しみの止滅に至る修行道が存在するという真理」(道諦)と三宝について紹介しているマイトレーヤのアプローチのしかたを称えられた。法王は仏陀の弟子のひとりとして、82歳にしても尚、ナーガールジュナ(龍樹)の著作を読んで勉強していることを語られ、仏陀の教えを祝福としてではなく、学ぶべきものとして、知性を働かせる対象として捉えるべきことを聴衆に伝えられた。
法王は、発菩提心の短い儀式へと聴衆を導かれ、人生の目的は利他の行いをなし、他者に奉仕するためにあると説明された。そして、文殊菩薩の礼賛偈と真言の口頭伝授を授けられ、会見を締めくくられた。
法王はステージを降りられる前に、昨年の治療に続いてつい最近メイヨー・クリニックで受けられた健康診断について話をされ、医師たちが満足する結果であったことを聴衆に報告された。
最後にチベット問題について、法王は以下のように明らかに説明された。
「私たちは、過去にチベットがひとつの自由な国ではなかったと言っているのではありません。私たちが言っているのは、現時点で独立を求めているのではないということです。私たちは中道政策を取っています。私の会う多くの中国の人びとは、始めは恐れているのですが、ひとたび私たちの求めていることが真の自治であることを理解をすると安心してリラックスします。私たちの中道政策は、アメリカを含め世界中の国の政府によって承認されており、支援を受けています」
その後法王は、ミネアポリス・コンベンション・センターから、直接ボストン行きの飛行機が飛び立つ空港へ車で移動された。そこでも法王は現地のチベット人会の人びとにより、伝統的な歓迎で迎えられた。