インド、ニューデリー
「普遍的価値観のカリキュラム作成中央委員会」会合二日目の本日午前、チベット文献図書館長のゲシェ・ラクドル師がモデレーターを務め、昨日の審議内容について教育機関の代表者らがダライ・ラマ法王に報告を行った。
教師に対する教育実習については、教育指針に熟達する教員を育成するだけでなく、教えている倫理を具体化すべきであるという点で意見が一致した。続いて、エモリー大学で開発された「社会的・感情的・倫理的学習の枠組み」については、法王が思い描かれている世俗的倫理や普遍的な価値観を発展させるためのプログラムの基盤となるべきであるという点で合意がされた。会合のテーマは、基本的な枠組み、カリキュラム開発の進捗状況、カリキュラムの質の管理、法王庁からの認証などにわたった。
6つの教育機関の代表者らが、カリキュラム開発の進捗状況とこれまでの成果を発表し、今後の計画の概要について報告した。まず、エモリー大学のチームを代表してゲシェ・ロブサン・テンジン・ネギ師が、続いて、ウッタル・プラデーシュ州メラートのアーユルギャン・ニヤス財団(Ayurgyan Nyas)を代表して、ディープティ・グラティ氏が報告した。この財団は、インドの「心と生命研究所」(Mind & Life Institute)の後継組織である。タタ社会科学研究所からは、欠席のS.パラスラマン所長に代わって2人の研究員が報告を行った。さらに、高等教育政策研究センターのニディ・サバーワル博士、そしてバサント・バレー・スクール理事長アルン・カプール氏がそれぞれ報告を行い、最後に、デリー大学のミーナク・タパン教授が報告を行った。
モデレーターのゲシェ・ラクドル師は、代表者たちの報告を振り返って概説した後、これらの教育機関の研究成果については中央チベット政権 (CTA:Central Tibetan Administration)の教育省と宗教文化省が関心を示しており、それぞれの大臣に報告書が提出されたことに言及した。
短いお茶休憩の後、アルン・カプール氏が委員会の具体的な行動計画について説明した。エモリー夏季教育プログラムの枠組づくりとカリキュラム開発計画は最終段階にあり、おそらく今年の6月から9月の間に実施が始まる見込みである、と参加者たちは考えている。
以上の報告をうけて、法王が次のようにコメントされた。
「何よりも私は、これらのさまざまな組織や機関で研究開発が進められていることに非常に勇気づけられました。私は、知識の豊富な専門家のグループがダラムサラを訪問して、皆さんのされている研究について見たり報告したりするための認証委員会を法王庁に設ける必要はないのではないかと思います」
「動物が戦争を起こすことはありません。人類だけが戦争を起こします。もし、人間の本性が怒りだとしたら、希望はありません。現在私たちが直面している問題は、既存の教育システムの不備によって生じているのです。私は、みなさんがその改善のために尽力されていることに感銘を受けています。カリキュラムの最終的な確定を急ぐ必要はありませんので、さらに研究を続けていただきたいと思います」
法王は、古代インドの智慧、特に心理学、論理学、哲学に関する智慧を現代に甦らせ、活かすというご自身の使命について述べられた。そして、睡眠時間は9時間であり、朝3時に起きると、4~5時間をかけて瞑想し、古代インドの智慧を用いて自分の心を磨いている、と述べられた。
また、法王は、古代インド仏教文献のチベット語訳(『チベット大蔵経』)約300巻の内容を、心の科学、哲学、宗教の3つの項目にわけて分類するプロジェクトについて述べられた。科学や哲学に分類される資料は、学術研究に関心のある人にとって有益なものとなる。しかし、宗教的な実践はまさに仏教徒のみの関心対象である。 法王は、30年以上にわたって科学者と対話を重ね、相互に有益な成果をあげてこられたが、古代インドの心理学において明らかにされた心や感情の働きについての深い理解に比べると、現代の心理学は未だに基礎的なレベルであるとの意見を繰り返された。
インドにおけるカースト制度が社会階層の一部に対して差別と圧迫をもたらしている問題が議論に挙がると、法王は、「民主化された社会においてカースト制度は時代遅れなものとなりました。インドの宗教的指導者の方々には、この古い慣習に対する反対意見を表明していただきたい」と述べられた。
そして法王は、次のように締めくくられた。
「ますます多くのインド人や西洋人たちが、物質的な生活の向上を追求することにうんざりしています。 もちろん、肉体的な快適さは必要ですが、内なる心の平和を達成する方法も知るべきです。 そして、私は、インドは心に関する古代の智慧と現代教育を調和させ、融合できる唯一の国であると信じています。これができれば、インドは灯台のような役割を果たし、他の国々の役に立つことでしょう」
法王は参加者たちと昼食をともにされた後、空路でダラムサラに戻られた。