インド、アッサム州グワハティ
今朝ダライ・ラマ法王は、講演会場となるグワハティ大学のホールに向かわれた。法王を招聘したのは、“壁を越える教育”を基本理念に2005年に創立されたクリシュナ・カンタ・ハンディクイ州立通信制大学と、75年間にわたり地元の学生たちに人気のある法律専門書店のロイヤーズ・ブック・ストールである。同大学のヒテシュ・デカ学長、S. K. ナトゥ博士、バスカル・ドゥターバルアー氏がそれぞれ法王を歓迎する辞を述べた。
法王は「現代に活かす古代インドの智慧」と題する講演を次のように始められた。
「今日では、世界のあらゆる国が互いに依存し合っています。グローバル経済の相互依存度は非常に深いのです。一方、気候変動がもたらすリスクも世界全体を脅かしています。拡がっていく貧富の差やカースト制度のような不公平な習慣は時代遅れであり、私たちがともに手を携えてこそ取り組むことができる問題です。ですから宗教の違いや人種、国籍などといった二次的な違いに目を向ける代わりに、私たちは人間として同じであることを思い起こす必要があります。そういうわけで、私は自分のことを70億の人間の中の一人であると考えるようにしていますが、もしそうせずに自分はダライ・ラマであって他人とは違うのだと考えると、人々から孤立してしまうことでしょう」
「このような考え方はナーランダ大学の伝統から学ぶことができます。最近私はインドの若者たちに、古代インドの智慧を学ぶことは現代を生きる私たちにとっても大いに役に立つことなので、もっと注目すると良いと勧めています。それによって私たち自身の悪しき感情にどのように取り組むべきかを学ぶことができます。アヒンサー(非暴力)の考え方は、恐れからではなくカルーナ(慈悲)に基づく実践として受け入れることができます。アヒンサーとは他者を害しうる時でも、そうせずに自己を律することです」
「アヒンサーとカルーナは、宗教間の調和を保ってきた伝統とともにインドの宝です。昨日お話ししたように、私自身はインド政府の最も長きにわたる客人なのですから、インドの偉大な伝統を伝える役目を果たすことでその恩に報いたいと思っています」
「法王が、祈りや宗教的儀式では、教育がなすほどの変化をもたらすことはできないと言われたのはどういう理由ですか」という聴衆からの質問に対して、法王は次のように答えられた。
「祈りは個人の実践としては良いことであるのは確かですが、現実の世界を変えようという点から考えると、過去何百年間にわたって人々は祈り続けてきたにもかかわらず、それによる変化はわずかしかありませんでした。実際に変化をもたらすことができるのは、教育なのです。これについては、ヴィパッサナー(観)の瞑想で行う分析的な瞑想が大変役に立つと思います」
続いて法王は、シロンやイタナガルなどインド東北部の地域から来たおよそ400人のチベット人に向けて次のように語られた。
「私たちチベット人には、過去になした祈願によるカルマのつながりがあります。しかし祖国に降りかかった不幸によって、国を離れなければなりませんでした。チベット本土に残っている人々は未だ困難に直面していますが、彼らの精神は強靭さを保ち続けているのです」
法王は、中国国内でも変化は起きつつあると指摘された。会場のチベット人たちに「自信を持ち、幸せでいなさい」と勇気付けられ、前列の子供たちにチベット語を学ぶようにと諭された上で、「沈んだ太陽が再び昇るのは確実です」と述べられた。
午後には、法王はナマミ・ブラフマプトラ祭の主賓として招待されていた。
ITA舞台芸術センターのホールにおいて、知事、首相及び地元の民間警察組織アッサム・ライフルの長官が、法王に伝統に基づく挨拶を述べた。
ヒマンタ・ビスワ・サルマ財務大臣がアッサム語で歓迎のスピーチを雄弁に語った後、言語を英語に切り替えて、アッサム地方とチベット間の交易と文化交流の長い歴史について語った。
法王は、この二日間の滞在がいかに楽しかったかを語られ、人々の暖かい歓迎に感謝された。また、かつて亡命の時に国境から警護してくれたアッサム・ライフル部隊の一人の年老いた兵士と会えたことの喜びを語られた。そして、法王のお考えを現地の人々と共有する機会を得て、人々も法王の話によく耳を傾けてくれたことがいかに大きな喜びとなったかを述べられ、「天候が荒れ模様だったことだけが残念でしたが、知事や首席大臣でもこれだけは変えられないので仕方ないですね」と付け加えられた。
最後に、チャンドラ・モハン・パトワリ運輸大臣が謝辞を雄弁に述べた後、締めくくりに全員で国歌を斉唱した。この後、法王はご滞在先のホテルに戻られた。
明日、法王はディブルガー大学を訪問され、現代教育における倫理についての講演をされる予定である。