インド、アッサム州グワハティ
昨日ダライ・ラマ法王は、 ダラムサラからデリーに飛行機で移動され、今朝のフライトでインドを横断してアッサム州最大の都市であるグワハティに到着された。空港は法王を歓迎しようと集まったアッサム人とチベット人、シャッターを構えて待ち受ける大勢の報道関係者でごった返していた。
昼食後、法王はITA舞台芸術センターに車で移動された。会場ではアッサム・トリビューン紙の79周年記念祝賀式典(プラチナ・ジュビリー・セレブレーション)と、同紙のアッサム語版であるダイニク・アッサム紙の53周年記念祝賀式典(ゴールデン・ジュビリー・セレブレーション)が行われ、その締め括りのプログラムに法王が招待されたのである。
法王は祝賀式典の冒頭で、アッサム州知事シュリ・バンワリラル・プロヒト氏、アッサム州首相サルバナンダ・ソノワル氏とともに壇上で伝統的なランプに火を灯された。
アッサム・トリビューン・グループの取締役バビタ・ラジコワ氏は、この式典に法王をお迎えできて大変光栄であると述べた。そして法王が亡命された際、北東インドにおいて国境を越えられ、そこで亡命生活をスタートされたこと、そして法王のインドご到着を最初に知らせたのはアッサム・トリビューン紙であったことを語った。
サルバナンダ・ソノワル首相とシュリ・バンワリラル・プロヒト州知事のスピーチの後で、法王は次のようにお話を始められた。
「私はいつも、『兄弟姉妹の皆さん』という言葉で講演を始めることにしています。私の主な使命の一つは、70億の人類は皆一つの家族である、という意識を高めていくことだと考えているからです」
「私たちは今日の世界において、人間が自ら引き起こした様々な問題に直面しています。暴力や殺戮が横行し、飢餓により多くの子供が死んでいます。人間として、このような状況に目をつぶることがどうして出来るでしょうか?ほとんどの問題は私たち自身が作り出したものなのですから、論理的に考えて、解決策も自分たちの手の内にあるはずです」
「幸いなことに、科学者たちが調査を行った結果として、人間には思いやりの心が本質的に備わっているということが報告されています。ですから希望はあるのです」
「私たちは、人間が本来持っている思いやりの心をさらに高める努力をしなければなりません。祈ったり、心地よい言葉を並べたりするだけではなく、私たちの知性を良い目的のために使うことで、それが実現可能になるのです。そうすれば自分たちが幸せになり、幸せな家族、幸せな社会、幸せな世界を作ることが出来るようになるでしょう。私たちはカルーナ(慈悲)、すなわち思いやりという生来持っている感覚を、他の人たちへ、究極的には人類全体へと広げ、全ての生きものを思いやりの心で包摂することが出来るのです。そのような能力が人間には備わっています」
法王は、ご自分が観音菩薩の化身で、ダライ・ラマ13世の転生者であると紹介されたことに触れられ、それが本当かどうかはわからないが、ご自身が受けられたチベット仏教の修練によって、自分の知性を最大限に活用することが出来るようになったと述べられた。その修練は、ただ教えられたことに「イエス」と言って従うのではなく、自分で考え、疑問を持ち、「なぜか?」「どうしてか?」と問うことを含んでいる。法王は、その修練の方法はナーランダー僧院の伝統によるものであり、それはサンスクリット語の伝統(大乗仏教)の最高峰であることを説明された。
そして、アッサム・トリビューン紙について言及された法王は、今日の特別増刊号は、法王が1959年にテズプールの国境を越えて亡命された時のことを思い起こさせるものであり、母と姉の写真を見て感慨深く思ったと伝えられた。
「1959年3月、中国の侵攻に対するラサでの大規模な蜂起の後、私は1週間に渡って事態の収束に努めました。しかしその間も中国軍の脅威は増すばかりであり、3月17日には、危険を冒しても逃げる以外に手立てがない状況に陥りました。私たちは南チベットに移動し、そこで中国と交渉できるのではないかと思いましたが、3月20日にはラサでの爆撃が始まり、その希望も断たれてしまいました」
「私は入国が可能かどうかを尋ねる為に、インドとブータンに使者を送りました。そして、私たちを受け入れる用意があると伝えるインドからの返信を受け取ったのです。インド国境において、以前の私の連絡官であったメノン氏と通訳のソナム・トプギャル・カジ氏が待っているのを見た時の安心感は本当に大きなものでした。その瞬間の、やっと解放されたという感覚を今もはっきりと覚えています。そこで人々に温かく迎えられ、私の人生の新しい章が始まりました」
それから法王は、1973年に初めてヨーロッパを訪問された時のことを語られた。ヨーロッパの人々は物質的には高いレベルの生活を営んでいたが、そのことが必ずしも幸せをもたらしていないことが見て取れた。法王が会われた多くの人々は、ストレス、不安、疑念に苛まれていた。その時法王は、幸せとは、他者の幸福を心から望むことによって得られる、というアドバイスが、今日の社会においても当てはまることを確認された。そして、インドにおいて長年に渡って継承されて来た、全ての宗教に偏見なく敬意を払うという世俗の倫理観の重要性を認識された。物質的な発展が肉体的な快適さをもたらすのに対して、心の安寧はアヒンサー(非暴力)として表現されるカルーナ(慈悲)に拠って得られる。そのことは、今を生きる70億の人々が知るべき重要なことであると述べられた。
聴衆との対話セッションに移る前に、法王は次の言葉でお話を締め括られた。
「私は1956年に仏陀の生誕祝賀式典(ブッダ・ジャヤンティ・セレブレーション)に参加するために初めてインドを訪れました。そして1959年に亡命者として再び戻って来ました。それから58年の歳月が経ち、今や私は最も長く滞在しているインド政府の客人となりました。先ほど州知事と首相が述べられた、人間の普遍的価値を高める必要性についてのお話に私も全く同感であり、その通りだと思います。今日は飛行機を降りた瞬間から、皆さんが大変温かく私を歓迎してくださいました。そのことに対して心から感謝申し上げます。どうもありがとうございました」
明日、法王は、グワハティ大学で講演を行われ、午後はナマミ・ブラフマプトラ祭に参加される予定である。