インド、ビハール州 ブッダガヤ
ダライ・ラマ法王は前日と同様、早朝よりカーラチャクラ堂に到着され、4時間にわたって、カーラチャクラ灌頂を授与するための準備の儀式を行なわれた。
法王が法座に着かれると、ルート・インスティチュート(ブッダガヤにあるFoundation for the Preservation of the Mahayana Tradition:FPMTの一機関)が運営するマイトレーヤ・スクールに通うインド人の生徒たちがサンスクリット語で『般若心経』を唱え、この伝授会の期間中3回目の読経をおこなった。続いて、スペイン語による『般若心経』がスペイン語圏出身の僧侶、尼僧、在家信者らによって唱えられた。法王は、「このような法話会でスペイン語の『般若心経』が唱えられるのは始めてのことです」と述べられた。
法王は次のように語りかけられた。
「私たちが他の人々を傷つけ、騙し、嘘をつくとき、私たちの心は煩悩にかき乱されています。このような利己的な動機で行動すると、自分自身に破滅がもたらされます。座り心地の良い 座蒲 (坐禅の際に使用する座布団)の上にすわって、“すべての生きとし生けるものが苦しみから離れることができますように”と言うのは簡単ですが、実際に他者を救うための行動を起こした時、初めてなんらかの良き変化を生み出すことができるのです。皆さんは、カーラチャクラ灌頂を授かるためにブッダガヤに来たのですから、あなた方が持って帰るべきものは他者に対する温かい心なのです」
「菩提心とは、他者を利益しようという動機を培うための知的な方法です。私は菩提心について説明するために、前行法話で『入菩薩行論』について解説しました。ですから、あなた方はこのテキストを何度も読み返し、すでに理解したことについて考えてください。そうすれば、心が安定し、心配や不安が減り、今世でも来世でも幸せになれるでしょう」
「今日は、ダライ・ラマ7世ケルサン・ギャツォが著された儀軌次第のテキストに従って、カーラチャクラ灌頂の“世間の高度な灌頂”と“出世間のより高度な灌頂”を授けます。私はすでに、自分自身を本尊として生起する“自生起”を行い、マンダラを観想して目の前に生起する“前方生起”も行いました。マンダラに住する諸尊への供養も終えています」と、法王は述べられた。
その後、“金剛阿闍梨の灌頂”を授与する次第に至ると、法王はこの灌頂の意味を説明された。「“金剛阿闍梨の灌頂”とは、灌頂を受ける弟子たちに対して、将来仏法を説き、灌頂などを授けることのできる資格を与えるものであり、これによって仏法を守り、伝えていくことができます。チベット仏教の各宗派の座主などの方たちがこちらに着座されていますが、この方たちがそのような役割を果たしていくのは明らかなことです。しかしながら、他の皆さんも、どこかでこのような責任を担うことになるかもしれません。ですから、受者全員にこの灌頂を授けます」
灌頂授与の儀式がすべて終わると、法王は今日の午後、最初に述べられたことをもう一度繰り返された。「灌頂を授けた目的は、各自が温かい心を育み、家に持ち帰るためです。そのことを忘れないでください」