インド、ビハール州 ブッダガヤ
ダライ・ラマ法王はカーラチャクラ堂に向かわれる前に、オーストラリア軍の元従軍記者であったマイケル・ウェア氏からナショナル・ジオグラフィック・チャンネルのインタビューを受けられた。
法王が60年に及ぶ深い修行の結果として、怒りと執着の感情はほとんど乗り越えたと思うと言われたことに対し、ウェア氏が、「ご自身の故郷にさえ執着はありませんか?」と質問した。法王は「600万人のチベット人たちが幸福かどうかについては以前よりさらに気にかけています」と答えられた。また、「チベットは消えたのではないか」との意見に対しては、特にチベット人の強い精神性とチベットの伝統文化に基づく生活様式が今もなお高められつつ生きているという事実について語られて、それを否定された。そして、「チベット語は仏教哲学を正確に理解し、問答するために最もふさわしい言語です。ですからチベット語を守ることは、単に600万人のチベット人にとって重要なだけでなく、この世界に存在する約10億人の仏教徒にとっても重要なことなのです」と述べられた。
午後、カーラチャクラ灌頂伝授会の会場に戻られた法王は次のように述べられた。「今日は、カーラチャクラ灌頂を授かるための序会(準備の儀式)を行います。明日はマンダラに入壇した後、子どものようにマンダラに入る七つの灌頂の幾つか、あるいはそのすべての灌頂を授与できると思います。その後、世間の高度な灌頂の授与を行います。当初、カーラチャクラの灌頂は秘密裡に授与されており、一般の弟子たちに対して広く授与されていたのではなく、また、これほど大勢の人々に対して授与されていたわけでもありませんでした。この教えは、シャンバラ王国の王のリクエストによって授けられたのです。しかし、その後カーラチャクラの灌頂は、大勢の人々に対して授けてもかまわないとされています」
「この灌頂を授かるとシャンバラ国に生まれ変わることができると言われていますが、シャンバラ国がどこにあるのかはわかりません。地球上のどこかにあるはずですが、清らかな福徳のある人しか行くことはできないと言われています」
「カーラチャクラには、太陽、月、星などを意味する“外のカーラチャクラ”と、脈菅、風、心滴などを表す“内のカーラチャクラ”があり、カーラチャクラの実践を意味する“別のカーラチャクラ”が、外と内の二つのカーラチャクラを浄化するための方便となっています。そして、空色身と不動の大楽の合一が方便と智慧の不二を象徴しています」
法王は、灌頂を授かる受者たちを正しい器とするための準備として、まず在家信者の男性と女性( 優婆塞 と 優婆夷 )に対して在家信者戒を授けられた。その次に、発菩提心の短い儀式が行われ、続いて菩薩戒が授けられた。菩薩戒を授与される前に、この儀式を行うことで、法王と受者とに師弟関係の結びつきが生じることを説明された。そこで、法王は次のような補足説明を加えられた。「シュクデン(ドルギャル)という神について徹底的に調査を行った結果、この神は間違った祈願によって生じたのだということがわかりました。ダライ・ラマ5世はさまざまな調査や分析をされた上で、シュクデンの神には悪意があり、実際に仏法と人々を傷つけていると書き残しています。シュクデンを信仰するかしないかは、あなた方の自由です。しかし、私、ダライ・ラマとの師弟関係を結び、私から戒律を授かりたいのであれば、シュクデンの信仰はしないでください」
続いて、ロブサン・センゲ主席大臣がニーム(インドセンダン)の歯木(爪楊枝)をマンダラに落とす儀式を行った。その後、受者一人一人に加持された聖水が与えられ、夢判断のための長いクシャ草と短いクシャ草、そして守護を得るための赤いお守りの紐が配られた。
明日からは、3日間にわたって実際の灌頂の伝授が行われる。