インド、ビハール州 ブッダガヤ
ダライ・ラマ法王は、今朝もカーラチャクラ灌頂の前行法要の法座に座られて法要を執り行われた。法要が行なわれる中で、カーラチャクラの砂マンダラの制作が迅速に進んでいる。ここブッダガヤには、既に85カ国からおよそ10万の人々が灌頂を授かる為に到着しているが、その数はまだまだ増え続けている。
昼食後、法王は前行法話の行なわれる会場に向かわれた。法王が法座に着かれると、まず初めに上座部仏教の僧侶たちがパーリ語で『吉祥経』を読誦した。続いて地元の学校に通うインド人の生徒たちがサンスクリット語で『般若心経』を暗誦し、最後にチベット語による『般若心経』の読誦が行なわれた。法王は、パーリ語の伝統(上座部仏教)は仏教の礎であることに触れられてから、サンスクリット語の伝統(大乗仏教)だけが論理を用いて教えを分析するという実践をしていることを述べられ、続いて般若経について説明された。
般若経の経典には長いもの、中位のもの、短いものがあるが、そこに記されている明らかな教えは空を理解する智慧であり、それについてはナーガールジュナ(龍樹)の著作の中に詳しく説明されている。また、般若経には隠された教えも含まれているが、それは修行の道における段階的な説明であり、マイトレーヤ(弥勒)の『現観荘厳論』とハリバトラ(獅子賢)による『現観荘厳論』の注釈書である『現観荘厳論光明』に詳しく述べられている。
法王は、カーラチャクラ灌頂の前行法話としてシャーンティデーヴァ(寂天)の『入菩薩行論』について説かれることを伝えられた。このテキストは自分と他者を平等とみなし、その考えかたに基づいて、自分と他者の立場を入れ替える方法を説くものであり、第9章では智慧についての教えが説かれている。法王はまた、カマラシーラ(蓮華戒)の『修習次第』中篇についても説明される予定である。
また、法王は次のことを強調された。「これらの教えに基づいて心を変容させる為には、テキストを何度も何度も繰り返して読み、読んだ内容について何度も何度も考えることが必要です。ですから私は、法話会の主催者にはテキストを配るようにといつもお願いしています」
そして法王は参加者全員に向かって次のように語られた。「今を生きる70億の人々は、皆同じように生まれ、同じように死んでいきます。私たちは皆、否定的な感情(煩悩)を持っていますので、幸せになる為には優しさと思いやりを育むことが必要です。幸せになるか苦しみを味わうかは、心が訓練され、鎮められているかどうかにかかっています。仏教ではその為の心の訓練について説いていて、そのようなことを述べている宗教は他にはありません」
法王は『入菩薩行論』の最初の数偈を読まれてから、第9章の導入の偈に移られた。第9章は智慧の章と呼ばれ、「世俗の真理」(世俗諦)と「究極の真理」(勝義諦)という「二つの真理」(二諦)の教えによって悟りが得られることが説かれている。悟りに至ることを妨げている主な障害とは、ものごとが実体を持って存在している、という誤った考えである。私たちの目に現れている通りに現象が存在しているわけではないことを理解すれば、その障害を取り除くことができる。
その後、法王は再び第1章に戻られて、「菩提心を育み、空を理解することができれば、来世において善き生を得ることは確実です」と述べられた。そして第8章から次の偈を読まれた。
最後に法王は次のように述べられた。
「テキストをよく読んでください。そこに書かれていることについてよく考え、その教えを人生に取り入れて実践してください。そのようにしていただけますか?」
前行法話は明日も引き続き行われる。