インド、カルナータカ州 マイソール
ダライ・ラマ法王は昨日、デリーからベンガルール(バンガロール)を経由し、マイソールに到着された。そして今朝、退役軍人で、日刊紙『スター・オブ・マイソール』(Star of Mysore)の記者、N. ニランジャン・ニカム氏のインタビューに応じられた。
法王はインタビューの中で、1974年以来ご自身が求めるのはチベット独立ではなく、中国憲法と1951年に締結された17条協約で保障されている権利であることを明らかにされた。
「何事も希望が湧くこともあれば、それを失うこともあります。かつての胡耀邦政権下では希望がありましたが、彼は失脚してしまいました。現在、中国政府との直接交渉はありませんが、本土のチベット人たちは不屈の精神を持ち、若い世代もエネルギーに満ちています。チベット問題が解決することで、台湾、香港、新疆ウイグル自治区における問題も解決に向かい、中国の国際的なイメージもよくなるでしょう」
続いてニカム記者は、法王がこれまで会われた世界中の著名人のうち最も印象に残っている人物について質問した。法王は少し間を置かれた後、高い地位にありながら謙虚で精神性を重んじたインドの初代大統領ラージェーンドラ・プラサード博士、ジャワハルラール・ネルー初代首相、ニジャリンガッパ氏注、そして最近ではオバマ大統領だとお答えになった。
インタビューを終えられた法王は、車でマイソール大学へ向かわれた。法王が到着されると、カルナータカ州警察音楽隊の演奏と共に、同大学副学長のK. S. ランガッパ氏をはじめとする大学、州政府高官らが法王を出迎えた。
学位授与式が始まると、法王は高官、来賓各位に挨拶をされ、次のようにスピーチを始められた。
「こうして国内で最も歴史ある大学に数えられる貴大学の式典に参加することができ、心から嬉しく光栄に思います。ニジャリンガッパ氏が私たちチベット人に友情と支援の手を差しのべてくださって以来、私にとってカルナータカ州は特別なつながりと思い入れのある地です」
法王はスピーチの中で、私たちが今日の世界で道徳の崩壊という問題を抱えていることに触れ、どの宗教も共通して道徳の重要性を説いているものの、世界70億の人口のうち、10億人は宗教に関心がなく、あとの60億人も、多くは真剣に宗教に向き合っていないと述べられた。そこで、特定の宗教や伝統に頼るのではなく、より普遍的で万人に通じるアプローチによる道徳教育が必要であることを語られた。祈りを捧げることで道徳を達成できるかといえば、それは疑わしく、やはり教育を通じてのみ達成できると説かれた。
また法王は、インドにはどの宗教も分け隔てなく平等に扱い、無宗教者も同等に尊重してきた伝統があることに言及され、このようなアプローチと、人間誰もが共有する常識、体験、科学的実証に基づくアプローチこそ、道徳教育に必要であることを明らかにされた。
「私がインドの友人によく申し上げているのは、この国は現代科学や技術の知識と、古代インドの心理学で育まれた智慧をつなぐ可能性を秘めているということです。仏教哲学と心の科学は、インドからチベットへ伝わり、私たちチベット人がその伝統を守り続けてきましたが、元をたどれば、インド人の皆さんが培ってきた知識なのです」
「今日卒業する皆さん、人生はこれからが本番です。皆さんの頭脳が優秀であることは証明されましたが、成功を手にするには、温かい心と他者への思いやりが不可欠です。これを心がけることで、何をする時も隠し事をすることなく、正直でいることができます。そして周りの人からの信頼と友情を得ることができ、皆さんが学んだことを意義あることに活かせるようになります。皆さん、どうもありがとうございました」
学長が式典の閉幕を告げ、法王はご宿泊先のホテルへと戻られた。明日はベンガルールへ移動される。
注:ニジャリンガッパは1959年に法王と同時にインドへ亡命した1万5千人のチベット人の受入れに尽力した大臣。現在カルナータカ州には4〜5万人のチベット人が居住し、同氏はその礎を築いた。 本文へ戻る