モンゴル、ウランバートル
ダライ・ラマ法王は、本日最初のプログラムとしてモンゴル駐在のインド大使と面談された。滞在先のゲストハウスのロビーに出てこられた法王を、大勢のモンゴル人がお加持を求めて待ち受けていた。マイナス40度というウランバートルの記録的な寒波の中を法王は外に出ていかれた。
ブヤントウハー・スポーツセンターに到着された法王は、伝統的な法衣に身を包んだ僧侶たちによるスィルニェン(シンバル)、ギャリン(トランペット)、ドゥンチェン(ホルン)の演奏による歓迎を受けられた。法王が法話会場の中に入られると、聴衆は伝統的な絹のスカーフ(カタ)を手に持って敬意を表し、法王を歓迎した。会場には定員の1万人を超える人々が集まり、席のない何百人もの人たちは通路などに可能な限りのスペースを見つけて腰を下ろした。その結果、1万2千人を超える幸運な人々がこの法話会に参加することができた。会場に入れなかった数千人の人々は会場の外に集まっていた。
法王が、文殊菩薩、観音菩薩、金剛手の顕現であるジェ・ツォンカパの礼讃偈の許可灌頂のために前行修法を行われていた間、聴衆は『般若心経』の真言を唱えた。
法王は、一般的な仏教概論の解説を始めるにあたって、祈願文を唱えたり儀式に時間を費やすよりも、説法をする機会を大切にしたいというお考えを明らかにされた。そして、マイトリチェータの次の偈頌を引用された。
「仏陀は有情たちを輪廻の苦しみから解放するために、『世俗の真理』と『究極の真理』という二つの真理(二諦)をお説きになりました。仏陀は、ただお加持を得ることで解脱に至ることができるのではないということ、そして知識と智慧を高めるべきことを強調されました。これが仏陀の説かれた修行道の実践です。ですから、仏陀の教えを理解することによって堅固な信心を持つことができるように、300巻を超えるカンギュル(経典)とテンギュル(論書)をしっかり学び、理解することが必要です」
「すべての現象には固有の実体がないという空の教えは、それ自体の側から存在する客観的な実体は存在しない、という量子物理学の見解に類似しています。仏陀の教えだからと言って信心するのではなく、その教えを厳密に分析し、よく調べた上で信心するべきなのです」
さらに法王は、モンゴルの僧院と尼僧院に所属する僧侶と尼僧たちに向けて、南インドのチベット僧院大学で既に実施している学習課程をモンゴルでも取り入れていくようにと助言された。チベット本土に住むチベット人たちと違って、モンゴルの人々は自分たちに関心のあることを楽しむ自由があるのだから、南インドの僧院大学のようなプログラムを実現できるはずである、と法王は述べられた。
法王は、法話会の午前の部の終わりに、ジェ・ツォンカパに対するゲルク派の伝統的なグル・ヨーガを実践する許可灌頂を授けられ、ご自身はタクダ・リンポチェからこの伝授を受けられたことを伝えられた。そして、許可灌頂の儀式次第の中で受者たちを菩提心生起の儀式に導き、続いて菩薩行の実践に入るために菩薩戒を授与された。
昼食休憩を終えた法王が会場に戻られると、聴衆の多くはすでに着席して法王をお迎えした。法王は、ジェ・ツォンカパの『縁起讃』は仏陀の教えを紹介する入門書の役割を果たしているのに対し、『修行道の三要素』は教えの実践方法について説かれていることを語られた。
「縁起の見解は、仏陀の教えの中でも比類のない大変ユニークな教えです。縁起の見解は他のどの宗教にも説かれていません。ナーガルジュナ(龍樹)とジェ・ツォンカバは仏陀の説かれた教えそのものを称賛しているのであり、仏陀のお身体の特徴を称賛しているのではありません」
明日、法王はトリティア・ダルマ・チャクラ財団の主催による仏教科学と現代科学の対話と題する国際会議に参加される。