チェコ共和国、プラハ
ダライ・ラマ法王はプラハの文化省に到着されると、ダニエル・ヘルマン文化大臣とキリスト教民主同盟=チェコスロバキア人民党の一団の歓迎を受けられた。対話の前に、法王とヘルマン大臣は省内にある礼拝堂に向かわれた。
対話のなかで法王は、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世に対する尊敬の念を表明され、ローマ教皇の呼びかけで1986年にアッシジで開催された異宗教間会議に出席されたときのことを述べられた。そして、異なる宗教を信心する者同士が集まり、意見を交換し合う時代が来たよろこびをローマ教皇に語られたことを伝えられた。
続いて法王は、ヘルマン大臣とともに車でマーネス・ホールに移動され、フォーラム2000の一環として「宗教の矛盾点」と題して行なわれたパネルディスカッションに参加された。司会進行役はシュロモ・アヴィネリ氏で、法王と大臣をはじめとするパネリストたちが繰り広げる対話に150名ほどの聴衆が聴き入った。
法王はその中で、次のように述べられた。 「異なる宗教間の調和を高めるには、かつて広く考えられていた“ひとつの宗教、ひとつの真実”という概念は個人の信仰のみにあてはまるということに気づく必要があります。多くの人々が属する地域に、さらには世界に目を向けるならば、“複数の宗教、複数の真実”があることは明らかなのです。チベットにいた頃、私は仏教が最も優れた宗教であると思っていました。しかしインドに亡命後、カトリック教会修道司祭のトーマス・マートンやマザー・テレサに接する機会をいただいたことで、さらには素晴らしいヒンドゥー教徒やユダヤ教徒、イスラム教徒の友人を得たことで、私は他の宗教も仏教と同じように素晴らしいと思い、心から讃えるようになったのです」
討論が世俗的な倫理に及ぶと、法王は、「世俗」という言葉はさまざまな意味に捉えることができる、と述べられた。そして法王ご自身はインドの人々がそうであるように、すべての宗教を、さらには宗教を信心していない人たちの見解をも公平に尊重するという意味で「世俗」を使っておられることを説明されて、ロシアのボリシェヴィキやフランスの革命家たちは世俗主義を提唱したが、それは宗教の教えに対してではなく、宗教的な制度に対して反対していたのではないか、と述べられた。
シュロモ・アヴィネリ氏はパネルディスカッションの締め括りに、友人でアラブを代表する知識人エドワード・サイード氏が残した「権力に対し真実を語るのは知識人の責務であるが、それには権力者側の対話の窓が開かれていなければならない」という言葉を紹介した。
昼食休憩後、法王はフォーラム・ホールまで歩かれ、「世界と現在の課題」と題して行なわれたパネルディスカッションに参加された。法王は、チェコ・クリスチャンアカデミーのトマーシュ・ハリーク教授、サウジアラビア出身の著述家で人権活動家のマナル・アルシャリフ氏と対話を行なわれた。シャリフ氏は創造性のある異議の提唱者としてバツラフ・ハベル賞を受賞している。
ハリーク教授は、グローバル化がもたらした軋轢と信頼の必要性について語った。今日、私たちは以前ほどにはグローバル化をポジティブに受けとめていない。世界が細分化されていくなかで、宗教の名のもとに過激派が生まれた一因がグローバル化にある可能性を否めないからである。
また法王は、宗教には愛と許しの実践に基づいた信仰、哲学的な見解、文化という三つの側面があることについて述べられた。そして文化的な側面は習慣や過去の生活様式と結びついていること、その多くは時代遅れなので変えていく必要があることを強調された。
法王はその後、この日最後の会議であるフォーラム2000の国際諮問委員会に出席された。