アメリカ、インディアナ州 インディアナポリス
今朝、ダライ・ラマ法王は、コロラド州とニューメキシコ州在住の650人のチベット人と会い、次のように語られた。
「私たちチベット人は古代からの長い歴史をもつ民族です。歴代の王たちは思いやりが深く、先見の明のある方々でした。現在使われている文字はトンミ・サンボーダが構築したものですが、この文字が作られる以前にもチベットには文字が存在していた、と主張する人々もいます」
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コロラドとニューメキシコのチベット人会の人々にお話をされるダライ・ラマ法王。2016年6月24日、アメリカ、コロラド州 ボルダー(撮影:ジェレミー・ラッセル、法王庁)
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「7世紀にソンツェン・ガンポ王が中国とネパールの王女を妃として迎え、二人の王妃はそれぞれの国の仏像をチベットに持参しました。中国からもたらされた釈迦牟尼像はラモチェ寺に収められ、仏教への関心を引き起こす引き金となりました。そして8世紀に即位した王ティソン・デツェンの母君は中国の方でしたので、中国との関係をさらに深めるという選択肢もあったのですが、王はそれよりもインド仏教、特にナーランダー僧院の伝統を引き継ぐことに尽力されました。そしてシャーンタラクシタ(寂護)をインドから招聘しました。シャーンタラクシタには『中観荘厳論』『真理綱要』などの著作があり、この二冊の著作に対するそれぞれの注釈書がカマラシーラ(蓮華戒)によって記されていますが、それらのテキストは、シャーンタラクシタが最高の学匠であることを明らかにしています。シャーンタラクシタはパドマサンヴァバ(蓮華生)の助力を得て障りを滅し、チベットにナーランダー僧院の伝統を伝え、確立されました」
「また、インドの仏典をチベット語に翻訳することを推し進められたのもシャーンタラクシタでした。シャーンタラクシタがチベットを訪れたのは70歳の時であったと言われていますが、その年齢にもかかわらず、チベット語を学ぶための努力をされたことが明らかにされています。その頃のチベット語は、仏教という新しい概念を表現する用語作りを土台とした、書き言葉中心の言語として発展しました。今日、ナーランダー僧院の伝統について知りたいと思うなら、チベット語を通して学ぶのがベストです。仏教の導入は、チベット語を高め、豊かな言語にしました。これは私たちチベット人が本当に誇れることではないでしょうか」
法王は、現代の哲学者や科学者たちと議論し、持論を展開することができるのも、ナーランダー僧院の伝統による訓練の成果である、と説明された。さらに、仏教の論理学と認識論の主な解説書は、今やチベット語でしか読むことができないことにふれられた。そのような文献の存在は、チベットの伝統が継承されていくために欠かすことのできない重要なものである。法王は、文字をもたないために、自分たちの伝統文化を存続させることに苦闘しているスカンジナビア半島のサミ族のような人々に会われ、早急に文字体系を確立することを勧めたと語られた。
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ダライ・ラマ法王の法話に耳を傾けるコロラドとニューメキシコのチベット人会の人々。2016年6月24日、アメリカ、コロラド州 ボルダー(撮影:ジェレミー・ラッセル、法王庁)
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「チベット仏教は今日において、仏陀の教えを最も完全な形で伝えている仏教です。チベット人はそのことをよく知っておく必要があります。国家としてのチベットは、今、大変な困難に直面していますが、私たちは自分たちの伝統を、生きた遺産として今まで守り続けてくることができたのです」
「ダライ・ラマ13世は、チベットが現代社会に適合しなければならないことを認識されていました。そこで学生たちを英国に留学させ、ルンシャルが英国で彼らの世話をしましたが、僧院は英語の学習を阻止し、13世の改革のための計らいに水を差してしまいました。そして英国の侵略が始まり、危惧されたことが具現化してしまったのです」
「1959年にチベットから亡命した後、当時のネルー首相の助力を得て、私たちはチベット人のために近代教育の学校を創設し、チベット人居住区を設立できる土地を探しました。そのとき最も甚大な援助の手を差し伸べてくれたのが、マイソール州と、強力なチベットの支援者である州の指導者ニジャンリンガッパ氏でした。その結果、セラ、ガンデン、デプンの三大僧院をはじめ、タシルンポなどの主要な僧院を再建することができたのです」
「亡命当初は学校において問答が教えられていました。シュクデンの信者によって殺害されたゲン・ロブサン・ギャツォ師がそれを始めたからです。しかし程なくして、その習慣は衰えてしまいました。今日、そのような科目を教える師のことは、宗教の教師ではなく、哲学の教師と呼ぶべきであると私は提案しています」
「仏法の勉強とは、心をよりよく変容させることを意味しています。私たちは300巻に及ぶカンギュル(経典)とテンギュル(論書)に収められている教えを、現実の本質と心の本質である科学と哲学の見地から学ぶ必要があります」
「私たちの亡命生活は今57年に及び、年配の人たちの世代は過ぎ去ろうとしていますので、チベットの伝統という灯火を若い世代の人たちが受け継いで行かなければなりません。その際は、宗派や派閥主義、地域主義にとらわれないように注意する必要があります」
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インディアナ仏教センターで法話をされるダライ・ラマ法王。2016年6月24日、アメリカ、インディアナ州 インディアナポリス(撮影:ジェレミー・ラッセル、法王庁)
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法王を乗せた飛行機はロッキー・マウンテン・メトロポリタン空港を飛び立ち、5つの州を超えてインディアナポリス空港に降り立った。そこから法王は、陸路インディアナ仏教センターに向かわれた。センターではアメリカ人とチベット人のメンバーが法王をお迎えした。小さな本堂に入り、法王は灯明を灯され、吉祥祈願文を捧げられた。法王はこのようなセンターは、訪れた人が、古代のインド哲学に基づく伝統によって明かされた、心と感情の仕組みを学ぶことができる学習センターにするべきである、との提案を強調された。
その後、法王は宿泊先のインディアナポリスのホテルに向かわれ、チベット人たちの出迎えを受けられた。