イタリア、ローマ
ダライ・ラマ法王は今日、第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミットに参加されるため、会場となるオーディトリアム・パルコ・デッラ・ムジカに到着された。法王はローマ市長のイニャツィオ・マリーノ氏にお会いになり、ついでジョディ・ウィリアム氏、シリーン・エバディ氏、マイレッド・マグワイア氏など旧知の友人や、レイマ・ボウィ氏、タワックル・カルマン氏など新しい友人と挨拶をかわされた。
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第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミット開催前に、ジョディ・ウィリアム氏、ローマ市長イニャツィオ・マリーノ氏と談笑されるダライ・ラマ法王。2014年12月12日、イタリア、ローマ(撮影:パオロ・トスティ) |
ローマ市長イニャツィオ・マリーノ氏は講堂にて、この会議は、投獄後の1997年にローマの名誉市民となった故ネルソン・マンデラ氏に捧げられたものであると告げ、「勝者は、夢を決してあきらめなかっただけだ」というマンデラ氏の言葉を繰り返した。長年の苦しみにも関わらず、マンデラ氏は怒りを示さず、その代わりに「癒しの時が来た」という言葉を残していた。
マリーノ氏は、若い世代が平和に向けてのコミットメントを自然に抱けるように、人権をグローバル化することがサミットの目的であると促した。さらに、今年の受賞者であるマララ・ユスフザイ氏とカイラシュ・サティヤルティ氏のことも念頭におくよう参加者に求めると、「平和のない自由は真の自由ではない」というネルソン・マンデラ氏の格言を繰り返した。
サミットの共同議長とローマ前市長であるワルテル・ヴェルトローニ氏が挨拶を述べた後、平和受賞者の代表としてマイレッド・マグワイア氏が登壇した。マグワイア氏は、平和は皆に託される権利であり、他の人権すべての前提条件となる必要があること、また、誰かに殺害されないという権利と人を殺害しないという責任は皆にあることを明言した。「正当な戦争」という理論を「平和の理論」に置き換えるというメッセージをローマ法王に伝えてもらいたいという願いを表し、暴力は何時でも間違っていて正当化されることはない、というダライ・ラマ法王のお言葉を引用した。
アルバート・シュバイツァー研究所の事務局長であるデヴィッド・アイヴス教授は、ケープタウンで提案された会議はキャンセルされたものの、世界団結の中での多様性について対話に参加すべく、研究所が学生のグループを現地に送ったことを伝えた。アイヴス教授は皆がダライ・ラマ法王の味方であることを表明し、南アフリカでの体験を報告するために学生の代表者を招待したと語った。
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ローマのオーディトリアム・パルコ・デッラ・ムジカで行われた第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミットに参加した観客たち。2014年12月12日、イタリア、ローマ(撮影:ブライアン・ルカ・ビアンコ)
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第1部の「平和を生きる、民主主義を生きる - 南アフリカ、20年の民主主義を振り返る:達成した目標と継続的な課題」に焦点を当てたディスカッションでは、インディペンド誌のベテランジャーナリスト、ピーター・ポッパム氏が司会進行役を務めた。リベリアからのレイマ・ボウィ氏、北アイルランドからのデヴィッド・トリンブル卿、ケープタウン市長のパトリシア・デ・リール氏とアムネスティ・インターナショナル代表のコルム・オクアナチェーン氏が紹介され、故ネルソン・マンデラ氏が最終的に気付いたのは「最も効果的な手段は平和的な手段である」ということだと、ポッパム氏は回想した。
南アフリカから唯一の参加者となったパトリシア・デ・リール氏に、南アフリカの変貌の様子を伝えることをポッパム氏が求めると、デ・リール氏は、南アフリカ政府のためにサミットの会場が南アフリカからローマに移動したことに、南アフリカの人々を代表して謝罪することから始めた。デ・リール氏は、1年と1週間前、ネルソン・マンデラ氏がこの世界を発ったことに触れると、マンデラ氏が南アフリカを平和的な移行へと導いたこと、正義なくしての平和はないことを繰り返し述べ、生前のマンデラ氏の偉業を維持するために取り組んでいくことを望んでいると述べた。
デヴィッド・トリンブル卿は、マンデラ氏が北アイルランドの代表者を南アフリカに招待することにより平和に貢献したことを語った。トリンブル卿はまた、南アフリカの大統領に就任したマンデラ氏は、以前の内閣が核兵器プログラムをもう少しで完了しそうであったことを発見し、すぐさまその試みを取り除いたことにも言及した。
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第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミットで演説するノーベル平和賞受賞者レイマ・ボウィ氏。2014年12月12日、イタリア、ローマ(撮影:オリヴィエ・アダム)
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レイマ・ボウィ氏は、リベリアの状況に怒りを覚えていたことを聴衆に語った。ボウィ氏は、ダライ・ラマ法王がされたように、怒りを「非暴力のうつわ」に注ぎ入れることのできる液体になぞらえ、もしそれを「暴力のうつわ」に注いでしまったならばチャールズ・テイラーのように刑務所行きになっただろう、と述べた。怒りを感じているときはまず深呼吸するべきだと学んだ、そう語るボウィ氏は、リベリアの和平交渉の際には、リベリア代表者たちが合意に達するまで退出を許可しない、と交渉会場の外に座り込みながら、他の女性たちと話したことについて観衆に語った。
ジョディ・ウィリアムズ氏は、対人地雷の終結を目的とするキャンペーンのために数々の非営利団体から協力を得た話をした。状況が好転したのはキャンペーンのおかげであって、自分の手柄ではないと述べると、市民社会が政府に圧力をかけてその仕事を遂行させた良い例だ、と、述べた。政府が力を保つために市民に戦いを挑んでくるはよくある話だ。ウィリアム氏は、クリントン元大統領が当時大統領だったマンデラ氏に米国政府の立場を支持するよう電話で要請したとき、マンデラ氏が、既に武器の被害者であったアフリカの兄弟姉妹のためにクリントン元大統領の依頼を断ったことに触れると、マンデラ氏の勇気と道義を中国政府の圧力に負けた者たちのそれと比較し、ダライ・ラマ法王は精神的な真の指導者であると明言した。
「他の精神的指導者と面会することによって、中国政府を怒らせたくないことを明示した精神的指導者が、ここローマにもいます。これは何を示すのでしょうか?」
ウィリアム氏は、物議をかもすかもしれないことをあえて口にする勇気のある人々や政府要人が中にはおり、ローマの政府がそのような勇気を示してくれたことに深く感謝すると話を括った。
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第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミットにて、最初のディスカッションをご覧になられるダライ・ラマ法王。2014年12月12日、イタリア、ローマ(撮影:パオロ・トスティ)
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ローマ市長のデ・リール氏は、マンデラ氏が南アフリカにもたらした最も偉大な貢献は「寛容性」であり、お互いに寛容と尊敬を示しあうことを人々に教えた、と語った。デ・リール氏は、自身の祖国である南アフリカへダライ・ラマ法王を招待したいと、壇上で申し出た。若者たちに対するアドバイスを求められたピーター・ポッパム氏は、次のように回答した。
「正邪を区別して、それを口にして行動に移すことができたら、成功する指導者となるでしょう。」
同様の意味合いで、異なる利害のバランスを取ることが最終的な結果であり、昔ながらの政治の実行はこれにつきる、とトリンブル卿は述べた。コルム・オクアナチェーン氏はアムネスティ・インターナショナルを代表して、道義に基づいて行動をすることを勧めた。オクアナチェーン氏はまた、南アフリカのシャープビル虐殺事件について、国連で非難した最初の国はブルマであり、同様の悲劇がブルマで起こった際、当時の国連安全保障理事会メンバーであった南アフリカはその事実を糾弾しなかったことに言及すると、人民の権利と民主主義を保護するために政府に責任を持たせることは必須であると語った。
第2部のディスカッション、「人類の発展に向かい平和に生きる - 持続可能な人類の発展に対する脅威」では、BBCワールド特派員ヤルダ・ハキム氏が司会進行役を務め、戦争がないことだけが平和ではない、というダライ・ラマ法王のお話から始められた。法王は、他の平和賞受賞者が自分自身よりも経験豊富であると感じます、と挨拶をされてから、次のように語られた。
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第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミットにて、登壇されたダライ・ラマ法王。2014年12月12日、イタリア、ローマ(撮影:パオロ・トスティ)
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「平和や暴力は最終的には私たちの感情に関連しています。暴力と非暴力の間の境界は心の中にあるのです。他の人のことを心から気遣っている場合は、自ずとその人たちの権利を保護するようになり、行動も非暴力的になります。怒りや恐れに動機付けられている限り、その反対の行動をとることでしょう。根本的には70億人の人間には違いは一切ありません。ですから、全人類の間で一体感を育んでいく必要があります。私たちは、人類に共通していることに焦点を当てる代わりに、国籍、人種、肌の色、貧富の差や教育があるかどうかなど、さほど重要でもなく表面的な違いに焦点を当てることが多すぎます」
「現在の教育制度を変えることによって、思考のあり方を変えることができます。現在、教育制度と私たちの生活の仕方は、とても物質的で、精神的な価値などにはあまり関心を向けていません。精神的な価値や道徳的な道義を考える際にだけ宗教に目を向けるのです。しかし、これで皆が満たされるとは限りません。現在1億人の人が、信仰する宗教はない、と言っており、何らかの宗教を信仰している人の中にも、信仰心が乱れていたり真剣ではない人が多くいます。
それゆえ、基本的な人間の価値を促進するために、世俗的なアプローチが必要となるのです。私が言う「世俗的」とはインドで用いられている意味合いのもので、すべての宗教や信仰そして無信仰の人にも対等な尊敬を示すという意味があります」 。
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第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミットにて、登壇されたダライ・ラマ法王とパネリストたち。2014年12月12日、イタリア、ローマ(撮影:ジェレミー・ラッセル、法王庁) |
「先ほど述べたように、価値観というのは人の感情に関連しています。健康を保つために身体を清潔にするように、心と言動の健康を保つためには、感情的にも清潔である必要があるのです。怒りや恐れなどの感情は、体の免疫作用に害を与えるという科学的証拠もあります。恐れという感情は私たちが抱える問題の多くの根源ですが、それに対抗する感情は信頼であり、友情の基礎となるものです。社会的な動物である人間は他の人々に依存せざるを得ません。だからこそ、自分の心と感情は常に訓練するべきなのです」
法王は、もう過去となった20世紀の世代と、21世紀の若い世代の違いに焦点を当てられ、過去を変えることはできないが、未来を形作ることはできると述べられた。それゆえ、21世紀の若い世代は、より良い世界をつくる機会とその責任がある、今すぐ始めれば今世紀の後ほどには世界がもっと平和な場所になるかもしれない、と語られた。ここでも法王は、一般的な経験と科学的な証拠に基づいた世俗的なアプローチを取ることを勧められた。一貫した教育を通じて、自分の考え方や世界と関わる際の自分の言動を変えていくことは可能であるとし、法王は、これらの言葉を単なる理想主義のものとして却下するのではなく、実現可能なものとして真剣に受けとめることを求められた。
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第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミットで講演するタワックル・カルマン氏。2014年12月12日、イタリア、ローマ(撮影:オリヴィエ・アダム)
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タワックル・カルマン氏は、平和の意味とは貧困の終結、女性と女子の保護、そして清潔な水の供給であると語った。「平和とは、腐敗に終止符を打つことを意味します。情報を取得する権利を皆に与えることを意味します。皆に同等な市民権があり、真の平等があることを意味します」、そして、自分の権利のために戦っている人々を支援することを促した。シリアとイラクの危機について、なぜこのような状況であるか尋ねられたカルマン氏は、自由のために戦っていた人々に耳を傾けようとしなかったからであるとし、自由を手にするために犠牲にするものもあるが結果は出る、と述べた。
司会進行役のヤルダ・ハキム氏が独裁者と妥協するべきであるかどうか尋ねると、ラモス・ホルタ氏は「ダライ・ラマ法王に伺ってみましょう」と述べ、法王は次のように答えられた。
「紛争に関わる双方は人間であり、直面している問題は短絡的な見方に起因しています。イラクとシリアでの問題は過去の過ちが症状化したものであり、解決は困難なものです。しかし、これらは人間の問題であり、人間的なアプローチを取り入れて対話を用いることによって、解決する必要があります。暴力に関わっている人々と席を共にして自分たちの目的を本当に達成しているかと尋ねてみると、問題の解決に暴力を用いるのは間違っているということがその人たちにも分かってくると思います。解決策の一つは現在の教育制度を改善することで、もう一つは指導者としての責任を持つ女性の数を増やすことです。いま存在する200カ国の国の指導者が女性だとしたら、世界はもっと平和な場所になると思いませんか?」
ラモス・ホルタ氏は、自分の権利のために戦うためには頭脳を使うことが重要であるとも付け加えた。自分の能力を過大評価したり、自分の敵を過小評価しないようアドバイスした。そして、9年間におよぶイラン・イラク間の紛争が終焉したのは介入の力によるものではなく、単に双方が紛争に疲れきっていたためであったことを想起し、シリアがこのような長い紛争に陥ることを恐れていると語った。
ダライ・ラマ法王がイタリア議会の下院議員長ローラ・ボルドリーニ氏との会談のために会場を去ったあと、イタリアでの難民問題への意識向上の活動を行っているタレケ・バーヘーン氏への、平和サミット社会啓蒙活動メダル授与式が行われた。
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第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミットでの昼食会にて、イタリア議会下院議員長のローラ・ボルドリーニ氏を囲むノーベル平和賞受賞者とダライ・ラマ法王。2014年12月12日、イタリア、ローマ(撮影:ジェレミー・ラッセル、法王庁)
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ボルドリーニ氏はノーベル賞受賞者を昼食会に招待した。ノーベル平和賞受賞者たちはボルドリーニ氏を囲み、タワックル・カルマン氏が「人類」という国籍を考えるときがきた、というインスピレーションに満ちた言葉を捧げた。
ホテルに戻られた法王は、RAIテレビ局のフランコ・デ・マーレ氏とのインタビューに臨まれた。
マーレ氏が、ローマ法王がダライ・ラマ法王と会われない事について尋ねると、法王は、「歴代の法王の何人かには謁見する機会があり、現法王ともお会いできることを楽しみにしていたので、ちょっと悲しいですね」とお答えになられた。「しかし、現在は不都合だということも理解できます。事を荒立てたくはないですから。私たちは道徳的価値観、宗教的な調和、平和、貧しい人々の救済などの関心を共有しており、私はローマ法王に尊敬の念を抱いています。」
南アフリカ政府が、中国政府の圧力に屈して法王の査証発行を拒否したことは、道徳的価値観よりもビジネスを優先したからであるかという質問に対しては、物質的な見解のもとではお金が優先される、と語り、次のように答えられた。
「しかし、お金は心の平和を保証するわけではありません。ツツ大主教の90歳の誕生日パーティーに招待されたので参加することを楽しみにしていましたし、もう一度ネルソン・マンデラ氏の偉業に触れることを楽しみにしていたのですが、ビザが取得できませんでした。私がチベットの独立を求めていないことは全世界に知られています。中国憲法で言及されている権利を実現することを中国政府に求めているだけです。チベットの環境を保護しながら、その豊かな仏教文化と言語をも守る権利が私たちにはあります」
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RAIテレビ局のインタビューを受けられるダライ・ラマ法王。2014年12月12日、イタリア、ローマ(撮影:ジェレミー・ラッセル、法王庁)
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法王は貧富の差について、裕福な者はそうでない者を励まし、施設や機会を与えるべきであるし、裕福でない者は自分に自信をつけるために努力をするべきであると語られた。
チベットの何が一番恋しいか尋ねられた法王は、「優しさを見つけた場所が故郷である」というチベットの格言を引用され、自分は世界市民であると考えており、人間の創造性を発揮するための自由と機会はとても重要であると述べられた。「インドでのモンスーンの最中には、ラサでのモンスーン期の心地よい雰囲気を思い出します」
第14回ノーベル平和賞受賞者世界サミットは明日も続く。