イタリア、トスカーナ州 リヴォルノ
ダライ・ラマ法王は本日、イタリアのリヴォルノで法話を始められるためにモジリアニ・フォーラムのステージに到着され、リヴォルノ市長のフィリッポ・ノガリーニ氏に暖かく迎えられた。歓迎の挨拶の中で、ノガリーニ市長はイタリアのリヴォルノに法王をお迎えすることが出来たことをとても光栄に思っていると述べた。そして法王は、前回リヴォルノ市を訪問された際に受賞された名誉市民賞の証として「リヴォルノ市への鍵」の授与を受けられた。
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リヴォルノ市長のフィリッポ・ノガリーニ氏より、「リヴォルノ市への鍵」を授与され、感謝を示されるダライ・ラマ法王。2014年6月14日、イタリア、リヴォルノ(撮影:オリヴィエ・アダム) |
法王は市長の心からの歓迎の言葉に感謝されて、最近の選挙で新市長となったことに対して祝辞を述べられた。「市長は民主主義に基づいて選挙に勝利されたのですから、市民の期待と信頼にこたえなければなりません。市長の肩には大きな責任がかかっています。市長が職務上の責任を忠実に果たし、再選挙で市長の実績が認められて、再選されることを望んでいます」と述べられた。
法王は「国の発展と進歩はその国の人々次第で決まります。国民はたとえ経済的に困難があったとしても自信を持つ必要があります。熱意を持つことが正しい発展と進歩の鍵となります」と述べられた。また法王は、過去55年にわたって難民としての生活を強いられ、多くの困難に耐えながらも決して自信を失わなかったチベット人のことを例に挙げられた。
法王は、いつものように兄弟姉妹の皆様、と呼びかけられて開会の辞を述べられ、法話を始められた。そして次のように述べられた。「人間は誰もが基本的に同じであり、害を与える悪い感情を克服することのできる知性を持っているという点で、皆同じ可能性をもっています。なぜなら、精神的レベルでは、裕福な人々でさえ満足しているわけではないからです。」法王は、五感を通して得られる肉体的なレベルの幸せではなく、精神的なレベルにおける幸せをもっと重要視するべきであるとアドバイスをされた。また、脳の専門家を含む医学者たちが、心の平穏を保つことが身体の健康のためにも非常に重要であるということを、実験と研究によって裏付けられていることに言及された。
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ダライ・ラマ法王の法話会が行われたモジリアニ・フォーラムのステージの情景。2014年6月14日、イタリア、リヴォルノ(撮影:オリヴィエ・アダム) |
さらに法王は次のように述べられた。「人は自分のことばかり考えていて、自己中心的な態度に偏り、”私たち”、”彼ら”という区別を強調し過ぎることから全ての問題を引き起こしています。私たちは皆、二次的なレベルの違いにとらわれるのではなく、地球上の70億人の人たちを一つの人間家族だと考える必要があります。そうすることによって、人間によって作り出された問題を、徐々になくしていくことができます。地球温暖化や環境破壊などの問題は個々の宗教的信念に関わらず、また物理的な境界線を越えて、全ての人たちに影響を与えます。70億人の人間社会の一部となり、一人一人が道義的責任を持って、よりよい社会をつくるのに貢献するべきなのです。」
法王は、宗教、組織、警察や軍事力など何も持たない虫たちを例として挙げられ、「虫の社会に属するそれぞれのメンバーが、彼らの種族全体の利益のために団結して働いています。虫や動物と違って、私たちは人間としての特別にすぐれた知性を持っているのですから、私たちはこのすばらしい知性を人類のためになるように使わなければなりません」と語られた。
法王ご自身についても、二次的な違いにとらわれることなく、全ての人を同じ人間家族の一人としてとらえて常にお話しをされていることを述べられた。「自分はダライ・ラマだということを重要視しすぎると、他の人々との間に隔たりが出来てしまいます。そうではなく、すべての人たちがともに安らぎやくつろぎを共有できる兄弟姉妹だと考えた方がよいのです。もし、私たちが個々の人たちのことを本当にやさしく思いやり、他の人々を兄弟姉妹だと考えることが出来たなら、私たちは今日世界各地で起きている殺人事件をなくすことが出来るでしょう」と法王は語られ、次のように続けられた。
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モジリアニ・フォーラムで行われたダライ・ラマ法王のご講演に耳を傾ける聴衆。2014年6月14日、イタリア、リヴォルノ(撮影:オリヴィエ・アダム)
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「仏陀は独立して存在する自我の存在を認めておられません。しかしこれは、それぞれの命あるものたちが存在していないということではないのです。もちろん誰もが私という自我意識を持っています。しかし自分自身に対して強い執着を持ってしまうと、たくさんの問題を引き起こしてしまいます。それを覆すためには、自分自身の幸福より他者の幸福のことを大切に考える利他主義を心に培う必要があります。」
法王は、インドのナーランダー僧院の偉大な学匠であったシャーンタラクシタ(寂護)、カマラシーラ(蓮華戒)、ダルマキールティ(法称)による偉大な貢献について語られた。「ナーランダーは僧院としてだけでなく、すばらしい学問寺でした」と法王は述べられて、チベット人がナーランダー僧院に伝わる仏教の教えをチベット語に訳し、ナーランダー僧院の伝統を守り続けてきたことについて喜びをしめされた。「中国、スリランカ、ビルマを含む世界中の仏教徒はこの貢献を評価して、今日たくさんの仏教徒がチベット仏教を勉強しています。」
昼食後、イタリアとその近隣国に住む200人以上のチベット人が集まり、法王は彼らに向けて講演をされた。法王は、チベットに伝わる古くからの伝統に誇りを持つようにと彼らを励まされた。そして、考古学者たちの調査によって石器時代の人類文明の証拠がチベットのドメー地方で発見されたことや、チベットのンガリ地方にも何万年も前からの石の遺跡があることにふれられて、チベットにはとても古い歴史と遺産があることを語られた。
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リヴォルノでイタリアと近隣国に住むチベット人たちにご講演をされるダライ・ラマ法王。2014年6月14日、イタリア、リヴォルノ(撮影:Film PRO)
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「人権と自由を求める私たちの闘争は、チベット本土のチベット人たちの精神力と粘り強さによって継続されています」と法王は語られた。そして晩年無神論者となり、祖国チベットを心から愛したバプ・プンツォク・ワンギャルのことを話された。また中国の共産党の役員であり、強い愛国心を持ち続けたチベット人についての話もされて、チベット人たちが非暴力による闘争を続けていることを嬉しく思っていると述べられた。
法王はチベット語、宗教、文化を大切に維持しているチベット人亡命者たちのことを語られながらも、「チベット人が徐々にチベットの文化や正直で誠実な態度を失っていくのではないかと恐れています」と述べられた。法王は古き良き時代には、純粋な信頼関係のもと、何の保証も取ることなくチベット人に無利子で貸し付けをしてくれたパンジャブのビジネスマンのことを例にとりあげて、それが今日では全て現金取引になってしまったことを語られた。
チベット語を学ぶことの重要性について、法王は、仏教徒ではないのに純粋なチベット語を話すジャンムー・カシミール州に住むチベット人イスラム教徒を例にとり、「彼らはいつも家でチベット語を話す習慣をつけていましたので、若い世代のチベット人たちもチベット語を学び続けることができたのです。チベット語は仏教を理解するために最高の言語であり、ナーランダー僧院の伝統を完璧に伝えることのできる唯一の言語です」と語られた。
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リヴォルノでイタリアと近隣国に住むチベット人たちにご講演をされるダライ・ラマ法王。2014年6月14日、イタリア、リヴォルノ(撮影:Film PRO) |
「多くの若いチベット人が海外に住み始め、インドのチベット人居住区には子供や高齢者が取り残されています。海外に住むチベット人たちがチベット人居住区に対する支援と貢献をすることが必要です。もしチベット人があと何十年、何百年も闘争を続けなくてはならなくても、チベット人居住区においてチベット語、宗教、文化が維持されて、次世代に引き継がれていくことを亡命者たちは望んでいます。」
法王は、各個人の利益を考えることよりも、より大きな利益のことを考えてチベット人コミュニティのことを考えるようにアドバイスされた。法王は、観衆の中のチベット人事業家を指さされて、彼がインドのバンダラにあるチベット人居住区の古い家屋修復のための支援をしたことに対して感謝の意を表わされた。法王は、ここイタリアのエアコンよりも、インドの人里離れた小さな居住区にあるエアコンの方がはるかに性能が良いと冗談を言われて笑われた。
午後、法王はモジリアニ・フォーラムに戻られて、ナーガールジュナの『友人への手紙』とツォンカパの『縁起讃』についての法話を続けられた。明日は、午前中に聖観自在菩薩の灌頂を授与され、午後は一般講演を行われる予定である。