和歌山県 高野山
秋の日本訪問の2日目、ダライ・ラマ法王はよく晴れた朝の大阪を出発された。だんだんと細くなる山道を車で約3時間の行程で、チベット仏教とも共通性の多い真言密教の本山として9世紀に弘法大師空海が開創された高野山に向かわれた。今日の高野山は117の真言宗の寺院、25万の墓石、樹齢300年の杉の木立で知られている。
金剛峯寺に到着し、人々に歓迎を受けるダライ・ラマ法王。2011年10月31日、高野山(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁) |
紅葉した楓の木漏れ日が美しく、厳粛で神聖な霊気に満ちた高野山に到着されたダライ・ラマ法王は、日本の天皇陛下も過日お泊まりになられたという金剛峯寺別館に案内されてお茶をふるまわれ、高野山真言宗管長・総本山金剛峯寺座主の松長有慶猊下より公式の挨拶を受けられた。法王は部屋から部屋へ歩かれ、一般人の長い歓迎の列に応えられると、法王との束の間のふれあいや祝福を受けてその多くが感激の涙を流した。
昼食後、ダライ・ラマ法王と松永有慶猊下は、黒や茶色の僧衣をまとった大勢の僧侶たちが待つ高野山大学松下講堂黎明館に向かわれた。インドのダラムサラからは、ナムギャル寺僧院長をはじめとする10名の僧侶が先行して到着し、松下講堂黎明館のステージの上に金剛界の砂マンダラを制作している。そこでお二人は現代の若者達を前に、未来の可能性について講演された。
高野山大学松下講堂黎明館で語り合うダライ・ラマ法王と松長有慶猊下。2011年10月31日、高野山(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁) |
ダライ・ラマ法王は、「日本の、特にこの聖なる場所を訪れることができて、仏陀の教えを受け継ぐ高名な師である弘法大師に想いを馳せることができたことをうれしく光栄に思っています」、と熱く語られ、「日本は、アジアで物質的に最も発展した先進国であり、同時に、完全な民主主義国家ですから、地球にとって重要な国だといえます」と話された。さらに法王は、来日のもうひとつの理由として、日本が今年3月に地震、津波、原発事故という災害に相次いでみまわれたことをあげられ、「友として、仏教徒の兄弟として、皆さんにお目にかかりにきました」と述べられた。
偉大な仏教の導師であるお二人への聴衆からの質問には、若い世代へのアドバイスや、人間の苦しみの理由などがたくさんあった。多くの心配事について語る17歳の少年に対して、法王は、「熱意を持っている事はよいことですが、あなたはまだ若く、少し経験不足だといえるかもしれません。ですから、まず忍耐強くなってください。私もあなたの年齢の頃には忍耐がなく、すぐに何でも解決したがったものでした。」と語られた。法王は会場の人々に対して、自分自身や自分の苦しみについて考える代わりに、どうしたらこの世界をより良くできるかを考えるようにと助言された。
高野山大学松下講堂黎明館でダライ・ラマ法王に質問する 聴衆。2011年10月31日、高野山(撮影:チベットハウス・ジャパン) |
法王はさらに、次のように述べられた。「ヨーロッパの経済危機は、人々が目先の利益ばかりを追い求め、長期的な見かたが足りなかったために生じました。環境危機も同様で、未来の世代のことを考えずに、人がやたらに木を切り倒したりするから起きたのです。地球規模で、子どもたちの未来のために物事を考えるべきであり、実際に我々の幸福や福祉はそれにかかっています。」
そして法王は、「教育の内容ももっと総合的なものにするべきです。物質的な世界のことだけでなく、慈悲の源となる心の平和について教えることが必要です。これは、すべての生きものたちが必要としているものだからです。例えば日本で起きた地震の原因を考えてみると、細部を超えたところにある、地球の社会全体が共有する集団的カルマといった深いレベルで考えなければなりません」と語られた。
法王は、聴衆に希望と愛を残し、「この世界に存在する問題のほとんどは、人間が作り出したものなのですから、私たち人間がそれを解決できることは明らかです。皆さんの国日本は、戦後の焼け野原の中から新しい近代国家を再建されました。いま、その時と同じ強さと自信を持って、物質的な向上と、内なる心の平和の両方を奨励する国を構築してください」、と述べられた。