広島
この日ダライ・ラマ法王は様々な分野の人たちを含めた記者会見を行なわれた。はじめに応じられたのはホームレスによって販売されているビッグイシュー・ジャパンのインタビューで、最近の経済危機について意見が求められた。
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広島のホテルにて、ミュージシャンたちと話をされるダライ・ラマ法王。2010年11月15日、広島(撮影:法王庁)
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この日ダライ・ラマ法王は様々な分野の人たちを含めた記者会見を行なわれた。はじめに応じられたのはホームレスによって販売されているビッグイシュー・ジャパンのインタビューで、最近の経済危機について意見が求められた。
会見の会場に選ばれたグランドプリンスホテル22階の部屋は四方を窓に囲まれ、そこから海に浮かぶ緑の島々を臨むことができた。その広々とした光景は、法王がしばしば使われる「より大きな将来の展望」というフレーズを思い起こさせた。
「経済危機によって人は経済の限界に気づくこともあります。日本がバブル景気に沸いていた時、そのような経済成長はどう考えても不自然です」と法王は警告された。インタビュアーが現在の経済状態を「混沌の時代」と称したのを受けて法王は続けられた。「ビジネスの世界は混沌の中にあるかもしれませんが、普通の人たちはそうでもないようです。私が住んでいるインドの山岳地帯でもそういう混乱のサインは見られません。精神的に不安定になるとすれば、人間の内面を顧みずに経済的な価値観ばかりに気を取られて、心の浮き沈みが激しくなるせいかもしれません。」
「仏教はあなた方日本人の宝です。その伝統をもっと有効に活用するべきだと思います。宗教というと時にその儀式に重きを置きがちになりますが、それでは意味がありません。その本質を学べば日々の生活に教えを生かせるはずです。『般若心経』を唱えてもその意味を知らなければ、何の役にも立ちません。それではテープレコーダーをまわしているのと同じだからで、何の意味もありません。」
次の謁見者はバンド活動をする人のミュージシャンで、ピースミュージックフェスタを企画する彼らは法王の音楽に対するお考えを伺った。法王はご自身の音楽の知識は非常に限られていると前置きをしてから、次のように述べられた。「音楽は心のレベルではなく、知覚のレベルで多くの人に働きかけます。音楽を通して大衆に素晴らしいメッセージを発信することは可能でしょう。音の善し悪しも大事ですが、一番大切なのはその曲が伝えるメッセージです。」
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東京のホテルで記者会見に臨まれるダライラマ法王。2010年11月15日、東京(撮影:チベットハウス・ジャパン)
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真剣に質問を続ける4人のミュージシャンに法王は言われた。「人類を苦しめる天災の多くは実は森林伐採といった人間の活動に起因しています。しかしそこには小さな希望もあります。人間が引き起こした問題なら、人間が解決できるはずだからです。」
一日の中で好きな時間はいつかと問われた法王は、「ぐっすり眠っている時です。悪いことは起きないし、健康にもとてもいいですから!」と答えられた。陽が傾き始め、海の上空にあった鉛色の雲の切れ間から一条の光が差し、法王の背後が明るさを増した。ミュージシャンたちと写真撮影をされた後、日本人記者との会見のために法王は階下へと降りていかれた。
記者団を前に法王は、人間として、仏教徒として、そしてチベット人としてのご自身の人生の使命について話をされた。それから記者たちに向かって、「視聴者が『人間は基本的に悪いものだから人類に希望はない』と思ってしまうような悪いニュースばかりを報道しないでほしいと思います。人々にもっと希望と勇気を与えていただきたいです」と述べられた。
中国についても質問が出された。「意図的であるかないかは別にして、現在チベットでは文化虐殺が起きています。漢民族の人口が全体の65%に達したラサでは、チベット人が中国語の使用を強要されています。チベット語の教科書の使用が大学で廃止され、チベット民族からその言語と宗教への信仰が奪われようとしているのです。毛沢東は大漢民族主義という極端な国粋主義を批判していたのですが」と法王は語られた。
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東京でダライ・ラマ法王の記者会見に参加する報道陣。2010年11月15日、東京(撮影:チベットハウス・ジャパン)
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最後に、他国からの圧力に日本はどう対応するべきかを尋ねられ、「寛容の精神をもって、確固たる姿勢で臨むことが大切です」と述べられた。3時に終了を予定していた記者団との懇談は4時20分まで続けられ、最後に全員で記念撮影が行われた。
法王がご自分の部屋に戻られた頃には、夕日が広島の街を照らしていた。街行く人々はみな微笑みを浮かべ輝いているように見えた。
法王は16日早朝東京に向かわれ、そこからデリーへの帰途につかれるご予定である。