奈良
ダライ・ラマ法王の秋の日本ご訪問第2日目が早朝より始まった。仏教伝来の地、古都奈良の中心にある奈良公園を通り、法王は東大寺金鐘会館へと向かわれた。会議室にはおよそ250人の大勢の僧侶や尼僧を含めた韓国人仏教徒たちが集まり、法王を出迎えた。法王はそこで、空と心の力についての法話を行なわれた。
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韓国からのグループへ法話をされるダライ・ラマ法王。2010年11月8日、奈良(撮影:法王庁) |
「私たちの心は、時に思い込みによって苦しむことがあります。それを克服するには智慧の力が必要です。智慧の力によって、私たちは物事の本質を見ることができます。経典の中で心について多くが語られているのはそのためなのです。」会場の韓国人たちが『般若心経』を唱えた後、法王は、一点集中の瞑想と分析的瞑想の違いについて説明され、疑問を持つことで物事の本質を探る分析的瞑想の重要性について語られた。
「智慧の力によって、空を理解することができます。空を理解すれば、他に依存しない独立自存の自我というものは存在しないということが解ります。智慧が私たちに悟りの心と無限の慈悲心をもたらしてくれるのです。しかしそれも、絶えざる努力なくしては得ることはできません。」
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東大寺の大仏の前で、異なる宗派の僧侶たちと共に読経されるダライ・ラマ法王。2010年11月8日、奈良(撮影:チベットハウス・ジャパン)
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法話を終えられた法王は、車で奈良公園の別の一角にある東大寺に移動された。紅葉した並木の間から何匹もの鹿が顔をのぞかせた。東大寺は奈良にある大本山の一つで、その歴史は752年にまで遡る。大仏を前に地元の寺院から僧侶が集まって共に読経をした。海外からの団体観光客や修学旅行生たちが沿道を埋め、参道を進まれる法王に声をかけて握手を求めた。
大仏殿を参拝された後、法王は僧侶たちと東大寺の敷地内にある洒落た近代的なホールに向かわれた。そこで法王は約350人の聴衆(多くは僧侶とその家族)を前に仏教徒のあり方についての話をされた。法王ご自身が実践されているのは、戒律を守っているかを常にチェックすることと、一日の終わりにその日の反省をすることだと言われた。
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東大寺のホールにて仏教の実践について語られるダライ・ラマ法王。2010年11月8日、奈良(撮影:チベットハウス・ジャパン)
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「仏教を簡単に実践することはできません。仏教に近道はないのです」と法王は強調された。自分で学ぶしか方法はないのだ、と繰り返された。
9月以来、アメリカのウィスコンシン州では200以上の学校で瞑想のクラスが開設されることになった。科学者たちの実証によって、それがよい効果をもたらすことがわかってきたのだ。
「ただ仏像を作るのなら経典を刷って配った方がいいかもしれません。私たちに必要なのは仏法(教え)、つまりダルマを学習することです。仏像は教えを説いてはくれません。立派な寺院を建立するよりも、教育施設を建てた方がいい場合もあります。21世紀の仏教徒は、仏教の知識はもちろんのこと、科学や世俗的な知識と教養にも精通していなければいけません。」
法王はその後、招致実行委員会のメンバーや奈良の様々な宗派の僧侶たちと共に会食をされた。そこで他の宗教を受け入れることの重要性についての話題が上がった。
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東大寺に集った、2,000人以上の人々に話されるダライ・ラマ法王。2010年11月8日、奈良(撮影:チベットハウス・ジャパン) |
午後、法王は世界最大の木造建築物といわれる東大寺大仏殿に戻られた。歓声を上げる人々に迎えられ、法王は大仏殿後方の大扉の前で、「縁起に基づき平和と
環境のためになすべきこと」と題する講演を始められた。広場を囲む紅葉したもみじの木立の間から秋の光が射し込んだ。折りたたみ式の椅子に座った2000
人以上の人々が法王の話に耳を傾けた。韓国人のグループ、小学生、遠方からはるばる訪れた日本人などが広場に集っていた。
「暴力を振るえば、それに対して報復措置がとられます。暴力は、更なる暴力を導くだけなのです。銃は短期的な結果をもたらしますが、長期的な問題解決には役立ちません。暴力を行使するのは非現実的な方法です。非現実的な方法は、決して満足のいく結果をもたらすことはありません。それは明らかな事実であり、科学的にも証明されています。怒りに駆られて、誰かを殴ろうとして闇雲に手を振り回しても、自分の手を打つばかりだということなのです。」
講演が少し長引いてもいいだろうか、という法王の問いかけに人々は喝采した。それに応えて、法王は平和の重要性について話を続けられた。子どもたちからの質問にもお答えになられた。「よく観察しなさい。よく勉強して、一生懸命努力しなさい。そうすれば何でも実現することができます」と法王は力強く語られた。