東京
2009年のダライ・ラマ法王ご来日第一日目は10月31日、35名の中国人との会見から始まった。彼らのほとんどは仏教徒である。靴を脱ぎ、座った彼らは「オーム・マニ・ペーメ・フーム」という聖観自在菩薩のマントラを唱えながら小さな部屋で法王を待っていた。法王が姿を現わされると彼らは目に涙を浮かべた。
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外国人記者クラブで報道関係者たちに話をされるダライ・ラマ法王。2009年10月31日、東京(撮影:チベットハウス・ジャパン) |
「チベット人にも中国人にも言っていることですが、あなた方は21世紀の仏教徒として、世界で、そして仏教界で何が起きているかを把握していなければなりません。仏教徒は生まれながらに仏教徒なのだと思っている人が大勢いますが、釈尊やナーガールジュナのお言葉を含めて、サンスクリット語やパーリ語から訳された約300巻あまりの学ぶべき膨大な仏典が存在するのです。仏教を学ぶ必要がなければそれら仏典も無用の長物ということになってしまいます」と法王は述べられて、学ぶことの大切さを強調された。
法王を囲んで、祝福を受け涙を流す彼らにむかって、法王は中国とチベットの状況について少し話をされた。その後法王は、多くの報道関係者とカメラマンの待つ外国人記者クラブへ車で向かわれた。明るく穏やかな中秋の朝であった。
法王は報道関係者に対して、ご自身は世俗的倫理観や宗教間の調和促進のために尽力されていることを述べられた。さらに昨今の世界的金融危機についても言及され、それは「貪欲に投機した」結果だと指摘された。
「そのようなところにも私たちの感情や道徳的な弱さが関わってくるのです。誰もが平和を望み、語っているにもかかわらず、そういう人たちでさえ必要とあれば暴力に訴えるのです。解決の方法はただ一つ、教育を通して世俗的倫理観を教えていくしかありません。しかもその教育は、私たちの内なる強さ、道徳心を育てるために、温かい思いやりの心を持ってなされなければなりません。」
「一般的な経験、常識、そして最新の科学的研究成果をもってすれば、かなり幼い頃から子どもたちに倫理や道徳を教えることができます」と法王は語られて、世俗的倫理観の大切さを強調された。「世俗の倫理観とは、宗教を否定するという意味ではなく、どの宗教に対しても、また信仰を持たない人に対しても、心からの敬意を払うということなのです。」
質問に回答するかたちでチベット亡命政権について、また相互依存についても考えを述べられた。「平和は祈願によって成し遂げられるものではありません。行動が必要です。平和を実現するには、まず自分の心の中に内なる平和が築かれていなくてはなりません」と法王は力強く語られた。
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東京の両国国技館で「修行道の三要素と発菩提心」と題して法話を行われるダライ・ラマ法王。2009年10月31日、東京(撮影:チベットハウス・ジャパン)
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東京のインド大使館で昼食をとられた後、法王は法話のために両国国技館に向かわれた。「『修行道の三要素』と『発菩提心』」というタイトルで行われた法話で、法王は、悟りに至る修行道において重要な三つの心とは「出離の心」(輪廻からの解脱を求める心)、「菩提心」そして「正しい見解」であると説明された。
法「さとりへの道は緩やかに進んでいくべきものです。人はいきなり仏陀になれるわけではありません」と法王は語られて、「自我」について解説された後、ツォンカパ尊師の著作である『修行道の三要素』について説明された。
「仏法(仏陀の教え)を実践する時は、宗派にこだわらないことが重要です。教えに耳を傾ける時、偏見やこだわりから解放されていることが大切なのです。そのような態度が、教えについて正しく調べ分析することを助けてくれるからです。」