ブッシュ大統領、ナンシー・ペロシ議長、ロバート・バード上院議員、同じく勲章を受賞されたエリ・ヴィーゼル氏、議員の方がた、そして兄弟姉妹の皆さま。
このたび米国議会名誉黄金勲章受賞の栄誉にあずかりましたことを大変光栄に思います。これはチベット民族にとって大きな喜びと励みとなるでしょう。私はチベット民族に特別な責務を負う者です。彼らの幸福は私の原動力であり、私は常に自分のことを彼らの代弁者だと思っています。また、私の受賞は、世界に平和と理解、そして調和を促進するために貢献されている多くの方がたに力強いメッセージを送るものと私は確信しています。
私個人の気持ちを申し上げますと、チベットの片田舎アムド地方の質素な家庭に生まれた僧侶である私が、このような栄誉を与えられたことに深く感動しています。子どもの頃の私は、真に慈悲深い母の溢れる愛情に包まれて育ちました。4歳でラサに赴いてからも、親切で、正直で、思いやりをもつとはどういうことなのかを家庭教師の先生をはじめ家政婦たちまで、周囲のあらゆる人から教えてもらいました。私はそのような環境で育ったのです。その後私は仏教の正式な教育を通して、相互依存といった概念や、人間が持つ慈悲の心を無限に高めていける可能性について知ることになりました。そのようにして私は普遍的責任感、非暴力、そして宗教間の理解を深めることの重要性を深く認識するようになったのです。今日私が、強い動機をもって人間に備わったよい資質を促進しようとするのは、そういった価値を深く信じているからなのです。チベット民族の権利と自由を勝ち得るための私自身の闘いにおいても、これらの価値が私を一貫した非暴力の道へと導いています。
光栄なことに、1991年に訪米した際も私はこのホールに呼んでいただきました。その時歓迎してくださった方の多くが今日も来ておられるのはとてもうれしいことです。また、多くの方が退職され、残念ながらお亡くなりになられた方もいらっしゃいます。それでも私はこの場を借りて、皆さまのご親切と貢献を讃えたいと思います。私たちが重圧に喘ぎ、最も危機的な状況にある時、私たちのアメリカの友人の方がたは私たちとともに困難に立ち向かってくれました。
ブッシュ大統領の多大なご支援と、私個人に示してくださったブッシュ大統領ご夫妻の温かい友情に心から感謝いたします。チベットへの共感と支持、そして宗教の自由と民主主義運動への確固とした姿勢に深くお礼申し上げます。ペロシ議長、あなたは常に私とチベット民族の正義を支援してくださっただけでなく、チベット以外の場所でも民主主義と自由、そして人権のために尽力してこられました。それに対し、私は特別な感謝の気持ちを述べたいと思います。
アメリカのチベットへの一貫した支援は、中国でも認識されています。それが原因で米中関係に緊張をもたらしたことは残念に思っています。将来チベットと中国が両者の隔たりを乗り越えて、互いに尊重し、共通の利益を認識し合う関係に移行することを、今日ここで私は皆さまと共に心から願いたいと思います。
中国は今、急速に前進しています。経済の自由化は中国に富と近代化、そして大いなる力をもたらしました。歴史的に長く豊かな文化を誇り、地球上最も人口の多いインドと中国は、彼らにもたらされた経済的成功に最も値する国だと言えるでしょう。これでどちらの国も、世界の舞台で重要な先導的役割を果たす用意ができたわけです。中国がこの役を果たすためには、透明性や法の支配、そして情報公開が不可欠です。中国が掲げる「調和のとれた社会」「平和的台頭」の概念がどのように展開していくのか、世界中がその成り行きを見守っています。多民族国家である今日の中国にとって鍵となるのは、さまざまな民族をいかに調和させ、まとめていくかということです。そのためには、各民族特有のアイデンティティーを保護する平等性と権利を保障することが不可欠です。
我が故郷チベットに関して言えば、チベット内外の多くの人たちから、急速な変化に伴う影響を強く懸念する声が上がっています。チベット内部の中国人人口は毎年驚異的なペースで増加しています。ラサの人口を例に考えると、チベット民族は自ら生まれ育った土地にありながら、取るに足らない少数派になる危機的状況にあります。この急激な人口増加は、壊れやすいチベットの環境にも深刻な脅威となっています。アジアにある多くの大河の源泉であるチベットの生態系がわずかでも乱されれば、何億という人の生活に影響を及ぼすことになります。さらに、インドと中国の間に位置するチベットの問題を平和的に解決することは、この隣り合わせの二大国の和平と友好関係の保持にも密接に関わってきます。
将来のチベットについて、この機会に再度断言いたしますが、私はチベットの独立を望んではいません。私が望むのは、中華人民共和国におけるチベット民族のための自治です。中国指導部の目指すものが国の団結と安寧にあるならば、私はもう既にそれに協力しているのです。私がこの立場を選択した理由は、特に経済発展によってもたらされる明らかな利益を考慮すれば、それがチベット民族にとって最善だと確信しているからです。加えて言いますが、自治が認められた場合、それをチベット独立の足がかりにしようという気持ちもありません。
以上のような考えを、私は歴代の中国の指導者たちに伝えて参りました。特に、2002年、中国政府との直接交渉が再開したことを受け、私は特使を通じてこの件に関して詳細に渡り説明をしました。それにもかかわらず中国政府は、私の「隠されたアジェンダ」は中国からの分離であり、チベットの古い社会政治制度の復活にあると断言しています。そのような憶測に根拠はなく、事実にも反しています。
若くして国のすべての責務を任された私は、当初からすでにチベットの変革に着手していましたが、残念ながら政治的激変により、その試みは中断させられました。それでも、亡命者としてインドにたどり着いた私たちは、政治制度を民主化し、亡命政権の指針となる民主主義的憲章を採用しました。今では政治的指導者も5年任期ごとに直接選挙で選出されています。さらに亡命社会において、私たちはチベットの文化および宗教の保護と実践を可能にしてきました。これはインドとその人びとのお陰によるものです。
もう一つ中国政府が最も心配しているのは、彼らがチベットに対する正当性を欠いているという点です。私には歴史を書き換えることはできませんが、双方が納得する解決策をとることで正当性も生まれますし、私は私自身の立場を使い、この問題に関してチベット民族が統一見解に至るよう働きかける用意があります。これに関しても「隠されたアジェンダ」がないことを再度申し上げます。将来のチベットに政府を置くことを認めないという私の決心は変わりません。
中国当局は、私が中国に対する敵意を隠し持っており、中国の繁栄にダメージを与えようともくろんでいると主張しています。これは完全な誤りです。私は世界の指導者たちに中国と関わりを持つよう常に勧めてきました。中国の世界貿易機関(WTO)への加入も、中国オリンピック招致も支持してきました。そうしてきたのは、中国がよりオープンで寛容、なおかつ責任ある国となることを望んでいるからです。
現在継続中の対話における一番の障害は、チベット内部の現状に関する見解が一致していないことにあります。現状に関して共通の見解を得るため、第6回会談において、「事実から真実を追求する」精神で実情を調べる調査団を現場に派遣させてもらえるよう、私たちの特使は中国側に要請しました。そうすれば双方が自分たちの主張から前進する助けになるはずでした。
中国指導部との対話も、中華人民共和国憲法および中国国務省による「チベット民族地域に関する白書」で保障されているチベットのための自治実施に向けて進展する時期に来ています。チベットが抱える深刻な問題を認識し、チベット内部のチベット人の不満の真の原因を明らかにして、和解の精神で現実的にそれらの問題に取り組む勇気と知恵をもつことを、この場をお借りして中国指導部に再度訴えたいと思います。
平和と理解、そして非暴力の促進に努めたことを評価していただきましたので、それに関連して少しお話しさせていただきます。より確固とした平和と、民族・文化間の理解と、調和を促進するため、アメリカにはさらなる努力をしていただかなければなりません。今がまさにその時なのです。アメリカの方がたは民主主義と自由の擁護者として、世界中で基本的人権のために奔走する人たちがその目的を実現できるよう援助していかなければなりません。もう一つ、私たちがアメリカのリーダーシップを必要としている分野が「環境」です。周知の通り地球は温暖化しており、科学者の多くは、その主な原因が私たち人類の活動にあると指摘しています。私たちは、誰もができ得る限りの方法で人材と財源を駆使し、少なくとも安全に生活できる地球を次世代に手渡せるよう努力しなければなりません。
世界が抱える問題の多くは経済的、政治的、あるいは社会的不平等と不正に根ざしています。詰まる所、これは全人類の幸福に関わる問題です。それが世界のある一部の地域の貧困問題であっても、また別の土地の自由・人権の侵害問題であっても、私たちはそういった問題を自分たちから完全に切り離して捉えるべきではありません。そのしわ寄せはいつか訪れます。アメリカの方がたには、巨大な経済格差といった問題に取り組む有効な国際行動をリードしていただきたい。人類は一つであるという立場で、そして、今日の世界が深く相互依存していることをよく理解しつつ、地上のあらゆる問題に取り組む時なのです。
最後に、アメリカの方がた、そしてアメリカ政府の支持に対し、600万人のチベット人を代表して心からお礼を申し上げます。これからも引き続きご支援いただけるようお願いいたします。本日このような栄誉を授けてくださいましたことを、心より感謝しております。
ありがとうございました。