横浜
ダライ・ラマ法王は、横浜のホテルのコンファランスルームで国内外から訪れた20人程の報道関係者に会われ、「中国は日本を必要としており、日本もまた中国を必要としています」と述べられた。「東洋は西洋を必要としており、西洋は東洋を必要としています。地球上のあらゆる国は他の国々を必要としているのです。ですから、小さな意見の不一致や考えの違いによって根本的な関係に悪い影響が及ぶというのは、あってはならないことです。それは近視眼的で狭い考えかたです。私たちはより大きな視点で物事を考えなければなりません。」
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報道関係者の質問に答えられるダライ・ラマ法王。2012年11月5日、横浜(撮影:チベットハウス・ジャパン)
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18回目の来日の第2日目、日中間の最近の不和について報道陣が法王に質問するのは避けようのないことに思われた。民主主義が政府の体制として最善と思うか、という質問に、法王は、日差しが溢れる部屋の中を見回され、窓の向こうの横浜湾にそびえる巨大な観覧車と灰色の高層ビル群の森に目を向けられた。そして再び報道陣に視線を戻され、次のように述べられた。「民主主義も完全ではありませんが、その他の政治体制と比べれば存在するべき理由があると思います。世界は人間に属しています。それぞれの国々がそれぞれの国民に属しています。ですから、いかなる国においても、民主的に選出された指導者が統治するのが最良の方法ではないでしょうか。」
法王は、ご来日の2日目を謁見で始められたが、その中で法王は、21世紀の仏教徒となることの大切さを強調して次のように述べられた。「つまり21世紀の仏教徒とは、仏教の教えと現代科学を全体的に理解した上で仏教徒としての信仰を持つ、ということです。」そして勤勉であらねばならないことを強調されて、「仏教を、ただの儀式と考えてはいけません。ある種の感情は、道理、論理、分析から生まれ、慈悲を生み出します。逆に憎しみや怒りから生まれた感情は、対象物の現実、つまり物事の本当のありようから私たちを引き離してしまいます。仏教徒は、“仏教とは何か?”“仏法とは何か?”“自我とは何か?”といった問題にもっと関心を持つ必要があります。仏教徒は感情から目を背けることなく、不和や破壊を招くような感情を滅する努力をしなければなりません」と述べられた。
また法王は、「どんなときでも、挑戦することには価値があります。挑戦しなければ、発展のチャンスもありません」と述べられてから、次のように広い視野で物事を見ることの価値を強調された。「私たちはチベットにいたとき、『チベットが一番だね』とよく言ったものです。でもそれは間違いで、あまりにも情動的でした。私は過去に、仏教が一番だと人々に説いたこともありました。でも仏教以外の宗教を信仰するさまざまな人と会ってみると、どの宗教が一番とは言えないと感じるようになりました。それはさまざまな医療があるのと同じようなものです。薬を投与するには、その症状をよく検討しなければなりません。それぞれの患者に、その症状や条件にあった医療があるのです。」
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横浜ご訪問中に韓国人仏教徒に語りかけられるダライ・ラマ法王。2012年11月5日、横浜(撮影:チベットハウス・ジャパン)
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内々の会合が続いたこの日、法王は、教育に根本的な原因があることについて何度も繰り返し語られた。
前述の記者会見では、「人々に正しいことをさせるにはどうしたらよいですか?」という韓国人ジャーナリストの質問に対し、法王は次のように述べられた。「私たちは皆、全体的に考えることの価値を理解していますが、その場のことだけを考えてこれを実践していないことが多いのです。」
「最終的に、鍵を握るのは教育です。既存の教育システムは道徳に十分な配慮をしていないことが多いのです。今の世代の人たちは、短期的な利益を重視し過ぎる教育を受けてきたのですから、彼らを責めることはできません。」
そして法王は、問題を真に解決するための唯一の方法は、内面の問題であれ、世界の問題であれ、より大きな視野を持ち、すべての物事とその原因が相互に関連していることを理解することである、と述べられた。
ユーモアを交えて情熱的に発せられたこれらの力強い言葉を残して、法王は横浜から車で1時間足らずの東京に向かわれた。東京では今回の日本ご訪問のメインイベントのひとつとして、科学者たちとの対話が行なわれる。