横浜(チベットハウス 記)
ダライ・ラマ法王は今朝、曹洞宗の大本山である総持寺を訪問された。そして総持寺のリクエストに応えるかたちで、「平和と宗教」について説かれた。会場となった本堂には、僧侶、学生、一般聴衆など1,700名が参集した。

|
総持寺で「平和と宗教」について説かれるダライ・ラマ法王。2010年6月27日、神奈川県横浜市(撮影:チベットハウス・ジャパン)
|
法王は、仏教の起源は2500年前に遡るが、その教えは現代においても理にかなったものであり、人々の宗教への関心は近年も高まっている、として、次のように語られた。「世界平和を築くには、私たちの心から始めなければなりません。まずは自分の心に平和を築くことから始めるのです。心の平和は、愛や慈悲、思いやりのある行動から生まれます。これは、世界中の主要な宗教が伝えている共通の教えですが、それでも異なる宗教間の争いが生じています。このような争いの原因は、それぞれの宗教が説いている教えを日々実践することよりも、他の宗教と異なる点を強調することに重きがおかれていることにあります。私たちは真摯に学び、実践することで、21世紀の仏教徒にならねばなりません。」
法王は、その真の実践者としてマザー・テレサを例に挙げられ、真摯に学び、実践するなら、違いについてあれこれと言いたてる暇はない、と述べられた。「一種類の薬だけですべての病を治すことができないように、一つの宗教だけで世界中の人々を支えることはできません。大切なのは、他の文化、他の宗教を尊重することです。互いを尊重することは、平和な社会の鍵なのです。」
法王は、武装解除の話にふれられ、「世界平和において、武装解除は大切なことです。しかし、永続的な武装解除と平和を得るには、まず私たちの心の武装解除が必要です」と述べられた。

|
韓国の高僧から掛け軸の贈呈を受けられるダライ・ラマ法王。2010年6月27日、神奈川県横浜市(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁)
|
午後、法王は、今回の法話と講演会のために韓国から来日した500名の韓国の人々に会見された。僧侶と一般の信徒からなるこの代表団は、韓国の仏教徒は法王の韓国訪問を望んでいるが、韓国政府の方針から実現が難しく、こうして来日した、と語った。
法王は、仲間である韓国の仏教徒の人々に会うことができたよろこびを表明され、韓国をはじめ、さまざまな仏教国を訪問したいと願っているが、現状では難しい、として、次のように語られた。「私たち仏教徒は、インドのナーランダー僧院を源とする同じ伝統を引き継いでいます。私たちは皆、21世紀の仏教徒にならなければなりません。それには仏教を真摯に学び、実践していく必要があります。仏教は、たんなる儀式になってはいけません。僧院や仏像を造るだけで満足せず、学者のように教えを調べ、真摯に実践するのが仏教徒です。信心するだけでは仏教徒とはいえません。大切なのは、愛と慈悲の実践者となること、そして『般若心経』の本質を学ぶことです。」
法王はその後、20名ほどの在日中国人のジャーナリストや学者、芸術家の謁見に応じられた。「皆さんにお会いできたことをとてもうれしく思います。私は、すべての問題は、直接顔を合わせて対話をすることで解決できると信じています。それには互いをよく理解し、意見の異なる点を相互にとって利となるように解決していこうとする真摯な姿勢が必要です。20世紀は苦難の世紀でしたので、私は、胡錦濤国家主席が掲げる「和諧社会」政策を高く評価しています。とはいえ、調和は相互の信頼と対話から生まれるものであり、恐怖や弾圧によってもたらせるものではありません。中国は、物質的には非常に発展しましたが、平和、安定、調和には欠けています。これは、中国指導部が取り組むべき現実です。」

|
中国人報道関係者のインタビューに応じられるダライ・ラマ法王。2010年6月27日、神奈川県横浜市(撮影:テンジン・チュンジョル、法王庁)
|
中国の報道関係者と学者たちは、じつにさまざまな幅広い問題について法王に意見を求めた。法王は、「大チベット」という構想については、中国側だけで作ったものであって、チベット側からは一度も求めたことはない、と明言された。また法王は「自治」について、中国憲法の枠組みの範囲内で認められるべきものであるとして、次のように述べられた。「前回のチベット亡命政権の代表団と中国指導部との対話の席で、私たちは、『全チベット民族が名実共に自治を享受するための草案』を中国指導部に提出しました。しかし、中国側はこの草案について話し合おうとせず、きっぱりとはねつけました。私たちが求めていることは、中国憲法に書かれていることを履行してほしい、ただそれだけです。」
在日中国人の代表団は、法王と直接話す機会を得たことへの感謝の言葉を述べ、法王のお考えや中道のアプローチがどういうものなのかわかった、と語った。中には、法王が短期間だけでも中国を訪問することができれば、多くの誤解を解けるかもしれない、という声も聞かれた。
法王は今日、10日間の、慌ただしくも実り多い日本でのスケジュールをすべて終えられた。明日、法王は横浜を発たれ、インドに向かわれる。