神変大祈願祭の法話会と「チベット女性の日」制定祝賀式典

2017年3月12日

インド、ヒマチャール・プラデーシュ州 ダラムサラ

数日来の雨と雪ですっかり冷え込んだ今朝、空は真っ青に澄み渡っていた。ダライ・ラマ法王は8時過ぎに法話会場であるツクラカンの階段を下りて来られた。鶏冠に似た黄色い帽子を被ったナムギャル僧院の僧侶たちが、法王のご到着を知らせるために大きな法螺貝を吹きながら法王を法座へと先導し、法王の後ろからは儀式用の大きな傘を持った僧侶が、法王の頭上に傘を差しかけながら後に続いた。


ダライ・ラマ法王のご到着を知らせる法螺貝を吹きながら、法王をツクラカンの中庭にしつらえた法座へと先導するナムギャル僧院の僧侶たち。2017年3月12日、インド、ヒマチャール・プラデーシュ州 ダラムサラ(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)
法王は、釈尊の前世物語である『ジャータカ』(本生譚)の法話会を始めるにあたって、約2600年前のインドには多くの宗教と哲学の伝統が存在していたことを説明された。そしてそれらの教えの内容は、その伝統に従う人々にとって有益なものであり、今尚そうであり続けるものが多い。そのような種々の伝統的宗教と釈尊の教えの相違点は、釈尊だけが、「この世界に実体をもって成立しているものは何ひとつない」という深遠なる無我の見解を説かれたことにある。釈尊は、私たちの苦しみの原因は、すべての現象が実体をもって存在しているという誤った観念に捉われ、それによって破壊的感情(煩悩)に支配されて悪しき行いに従事してしまうことにあると説明された。

そして法王は次のように続けられた。
「しかし、釈尊が説かれた無我の教えは、他の伝統の導師たちにとっては納得のいくものではありませんでした。彼らは皆、神変(奇跡)を起こす競争に夢中だったのです。今日は、舎衛城(シュラーヴァスティ)において釈尊が神変を起こし、非仏教徒たちを打ち負かされたという故事にちなんだ大乗仏教ゆかりの日です。チベットでは、ツォンカパ大師が大祈願祭を開いてこの日を祝うという慣習を作られました。これは釈尊の四つの偉大なる行ないの一つとして数えられています」


ダライ・ラマ法王が神変大祈願祭の法話を行なわれたツクラカン中庭の光景。2017年3月12日、インド、ヒマチャール・プラデーシュ州 ダラムサラ(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)
「チベットでは、仏教が初めて伝えられて広まった前伝期の後、教えは時と共に衰退してしまいましが、11世紀にリンチェン・サンポが現れると共に再度仏教が復興することになりました。この時代にアティーシャがチベットに招聘され、アティーシャは『菩提道灯論』を著されました。アティーシャの教えにより、後にカダム派が成立しましたが、カダム派は三つの分派から成っています。そのうちの一つであるカダム経典派は、六冊の典籍を重視していますが、その六つとは、『34のジャータカ物語』(本生譚・ジャータカマーラー)、『法句経』(ダンマパダ)に相当するチベット語の『感興のことば』(ウダーナヴァルガ)、シャーンティデーヴァ(寂天)の『入菩薩行論』と『大乗集菩薩学論』、アサンガ(無着)の『瑜伽師地論・菩薩地』、マイトレーヤ(弥勒)の『大乗荘厳経論』です。『34のジャータカ物語』には、釈尊が沢山の過去世において為なされた、菩薩としてのすぐれた行ないが書かれています」

今日、法王が説かれた『ジャータカ物語』の中のお話は、全34話の最後のエピソードである。それは、釈尊がある前世において菩薩として修行道を歩まれていた時に、キツツキとして誕生された時の話である。ある日そのキツツキが空を飛んでいると、埃まみれで苦しそうな表情のライオンが見えた。そこでキツツキはライオンに近寄って「どうしたのか?」と尋ねた。ライオンは「喉に骨の破片を詰まらせて、それが取れなくて苦しんでいる」と告げ、「あなたに出来るのであれば、どうか骨を取って欲しい」と懇願した。そこでキツツキは注意深く考えてから、そのライオンに口を開けるようにと言った。ライオンは口を開け、キツツキはライオンの口が途中で閉まらないように、口につっかえ棒を立ててから、口の中に入って骨を力いっぱい引っ張り、何とか喉から抜いてやることができた。そしてつっかえ棒を外しながら口の外に出た。このように、賢いキツツキの姿をした菩薩は、ライオンの大きな苦しみを取り除いてやったのである。

その後しばらくして、キツツキは十分な食料を得られず、飢えで死にそうな状況に見舞われた。彼はその時、自分が救ったライオンを見かけた。ライオンは仕留めたばかりの獲物を食べているところだった。そこでキツツキは、その餌を分けてもらえないかと思い、ライオンの周りを行ったり来たりしながら飛び続けた。しかしライオンは分け前をくれる気配がなかったので、キツツキはライオンに直接話しかけて頼んだ。するとライオンは「ウォー」と吠えて、その申し出を拒んだ。それはライオンが恩を受けてもそれに報いる気持ちがない生きものであったことを告げていた。


ツクラカンの中庭で法話を行なわれるダライ・ラマ法王。2017年3月12日、インド、ヒマチャール・プラデーシュ州 ダラムサラ(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)
法王は、この話の最後まで読み上げられると、伝統に従って、『ジャータカ』の最初に戻って第1章の最初の部分を読まれた。そして著者のアーリヤシューラについて話された。アーリヤシューラは、元はとても優秀な非仏教徒の論客であり、ナーランダー僧院の僧侶たちに討論を挑んだ。ナーランダー僧院の僧侶たちは、アーリヤシューラに打ち負かされることを恐れ、ナーガールジュナ(龍樹)に助けを求めた。そこでナーガールジュナは、弟子のアーリヤデ―ヴァ(聖題婆)をご自分の代わりに遣わされた。その結果、アーリヤシューラは論争に敗れ、アーリヤデーヴァの弟子となった。

続いて法王は次のように述べられた。「ナーガールジュナは、多くの釈尊への礼賛偈を書かれていますが、『金剛心讃』という短いテキストがあることを知り、今日は皆さんにそのテキストをお配りしました」法王はそのテキストを読み始められ、次のことに言及された。「宗教の修行には、沐浴などの身体による行為や、ヴェーダのように音の効果を利用するものがありますが、釈尊は心を訓練する方法について説かれました」

「この短いテキストの中で、ナーガールジュナは心そのものに礼拝しています。心自体が、様々な妄分別と煩悩を引き起こす源である無知を取り除く力を持つものだからです。煩悩が生じるとそれによって悪しき行為に従事してしまい、自分に苦しみをもたらすことになってしまいます。ですから輪廻の苦しみは自らの心によって生み出されているのです。心がなければ、苦しみも喜びも味わうことはありません。利他を動機とする行いは私たちに利益をもたらします。心が捉える対象は世俗のレベルにおいてのみ存在しているのであり、それらはただ名前を与えられたことによってのみ存在しています。

「妄分別は輪廻の生を生み、妄分別と煩悩を滅すれば涅槃に至ります。最も微細な光明の心には初めも終わりもありません。その光り輝く光明の心が仏陀の境地に至るのです」

法王は『金剛心讃』のテキストを最後まで読まれた後に、『七仏通誡偈』としてよく知られる次の偈を引用された。

  • 諸悪莫作 罪を決して為さず、
  • 衆普奉行 できる限り善を積み、
  • 自浄其意 己の心を完全に律する
  • 是諸仏教 これが諸仏の教えである


法話に続いてツクラカンの中庭で行なわれた、「第1回チベット女性の日」の祝賀式典冒頭で、祈願文を読誦する4人の女性の仏教博士(ゲシェマ)たち。2017年3月12日、インド、ヒマチャール・プラデーシュ州 ダラムサラ(撮影:テンジン・チュンジョル / 法王庁)
また、今日3月12日は、58年前に、中国の侵攻に抗議してチベットの女性たちが蜂起した日でもある。チベット中央政権(CTA)は、この日を「チベット女性の日」として祝うことに決め、引き続き、その第1回祝賀式典が行なわれた。

会の冒頭では、昨年12月に仏教博士号を取得した4人の尼僧(ゲシェマ)が『菩提道次第』の締めくくりの祈願文を読誦した。続いてTIPA(チベット舞台芸術団)の女性たちが「チベット女性蜂起の日」という曲を披露した。

ロブサン・センゲ首席大臣は女性の権利向上についてのスピーチをし、女性の権利向上を確実にする為には、新しい思考様式を持たなければならない、と述べた。次にオーストラリアとフランスから来たゲストの女性たちによるスピーチが行なわれた。

最後に法王が登壇され、チベットの置かれた状況や、仏教における女性の地位に関するお話をされた後で、優しさと思いやりによって平和をもたらすために、本来的に豊かな慈しみの心を持っている女性が指導者の立場に立つことはとても重要なことである、と女性たちを励まされた。

法王は、明日と明後日、カマラシーラの『修習次第』中篇とギャルセ・トクメ・サンポの『37の菩薩の実践』の法話を行なわれる予定である。
 

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